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議論を生む地球温暖化シミュレーション

『戦略決定の方法』より コンピューターのお告げに騙されてはいけない

シミュレーションモデルをつくる際にはいろいろな変数が入ってきます。変数が変わると計算の結果も変わってきます。変数の値を一つに決めるために、実際に観測されたデータの数値をシミュレーションモデルに入力して、計算の結果が観測データと一致するよう、変数を調整していきます。

この作業を「チューニング」と呼びます。まずは適当に何か数値を入れておいて、それからラジオの受信周波数を合わせるときのチューニングと同じように、適当にその変数を動かしてみて、「どのくらいにしたときに観測結果と合う数字(計算結果)が出るか」を見ながら、変数の値を決めてゆくのです。

チューニングの結果、シミュレーションモデルが過去の観測データをなぞるようになったら、その上で時間軸を動かして、未来の数字がどうなるかを見るわけです。

これがシミュレーションモデルによる予測という作業であり、広くシミュレーションと呼ばれているものです。

チューニングの問題点は、その答えが一通りには決まらないということです。

過去のデータをなぞるように調整するといっても、変数は通常、かなりの数に上るので、その変数の組み合わせ次第で、一つの観測結果への合わせ方も何通りも出てきます。

結果としてチューニングの仕方に、シミュレーションモデルをつくる人の個性が出てくることになります。

地球温暖化予測の場合でも、温暖化現象に関係する要因は非常に多いので、CO2に対する気温上昇の感度をどの程度と見るかは、シミュレーションモデルのつくり方によって違ってきます。結果的に、わずかなCO2濃度の上昇によって温度が非常に上がっていくモデルもあれば、それほど上がらないモデルもあるというように分かれてきます。

二〇〇九年一二月に行われた「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」についてのコペンハーゲン会議でも、「このモデルでは非常に高い温度になる」「こちらのモデルでは低い温度になる」というシミュレーションモデルごとの違いが問題になりました。

つまり同じ観測結果を基にしても、それをベースにシミュレーションした未来予測の結果は一通りではなく、研究者の考え方次第で大きくばらついてしまうということです。

さらに言えば、過去のデータ(観測結果)をベースにシミュレーションモデルをつくるといっても、過去の現象と未来との間に連続性があるとは限りません。

たとえば過去に何度か、「三日雨が続いたら翌日は晴れる」という観測結果があったとします。けれども未来についても本当に同じことが繰り返されるかどうかは、そのときになってみなければわかりません。

過去のデータをきちんとなぞるシミュレーションモデルをつくったとしても、未来が過去の延長線上にあるとは限らないのです。

気候とCO2濃度の関係について、今のところ過去のデータからわかっているのは、「この何十年か地球の気温が上昇してきていて、その間、大気中のCO2濃度も同時に上昇してきている」という事実です。しかし果たして過去の気温の上昇がどの程度、CO2濃度の上昇に起因するものなのかははっきりしないし、将来的にもその二つの数値の関係がこれまで通りの関数になるとも限らないのです。

そうした曖昧さが地球温暖化問題でも議論を引き起こす原因になっています。

「CO2がこれ以上増えたら、地球はとんでもなく暑くなってしまう」

とシミュレーションモデルの結果を盾に主張する人たちに対して、

「おまえのつくったモデルが正しいかどうか、誰もわからないじゃないか」

という疑問が出てくるのは、その意味では当然です。だからといって、「そんなものは間違っている」とか、「全く当てにならないから気にする必要はない」とも言えない。そこが難しいところです。

シミュレーションモデルは今のところ、そうした限界から完全には逃れられません。

一部の人たちには未だに、「大量の数式を設けて大型コンピューターで計算を行えば、未来が見えてくるはずだ」という幻想が残っているようです。
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