舗装されているが路辺は雑草の茂った緩やかな坂道を上っていた。知り人に出会いその人の方を向いて挨拶を交わし頭を上げるとき、白い花が目に入った。背丈のある雑草の陰にあるその花にちょうど洩日があたっていた。白い野菊だった。
野山に自生している小さな菊の総称を野菊と呼ぶのであって野菊という花はない。そのため白だ、黄色だ、紫だと決めかねる。伊藤左千夫の小説「野菊の墓」で民子を野菊になぞらえているが、どの花を指すのか書かれていない。単に野菊と書いて、物語のなかでその色や名前を想像させようとしたのではあるまいか。
♪遠い山から吹いてくる しもがおりてもまけないで
こ寒い風にゆれながら 野原や山にむれて咲き
けだかくきよくにおう花 秋のなごりをおしむ花
きれいな野菊うすむらさきよ きれいな野極うすむらさきよ
野菊のように自生する植物が育っていく自然が狭められているこのごろだ。
山は削られ田畑は埋め立てられ、そこには同じキク科の「背高泡立草」が繁茂している。小川は暗渠にかわりめだかは姿を消し自然と遊べたところを車が走っている。これはいろいろな冠名をつけた開発のもとに進んでいる。環境影響評価の視点を変える必要を痛感する。
小学校のころ野菊を摘んで教室の花瓶に挿したことが懐かしい。そのころ花を買って持参するなど親も気づかなかったしそんな余裕はなかった。
(写真:こぼれ日に輝いていた白い野菊)
「野菊のごとき君なりき」?なんて映画見たような気がします。