shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Bossa Nova Soul Samba / Ike Quebec

2010-01-17 | Jazz
 アート・ブレイキー、バド・パウエルと超メジャー級アルバムが続いたブルーノート4000番台の愛聴盤シリーズの最終回は一転してマイナーな盤である。ジャズの紹介本や雑誌で取り上げられるアルバムというのはいつも判で押したように皆同じで、先の2枚やソニー・クラークの「クール・ストラッティン」、ソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」、ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビィ」にマイルス・デイビスの「サムシン・エルス」(←キャノンボール・アダレイの、とは言いませんね、普通...)と、どれもこれもビッグ・ネームの有名なアルバムに偏ってしまい、一向にその先に話が進まないのが現状だ。しかし露出が少ないせいであまり知られてはいないが内容はめちゃくちゃエエ盤、いわゆるひとつの “裏名盤” がジャズ界にはゴロゴロしており、そんな “自分だけの名盤” を見つけていくことこそがジャズを聴く醍醐味だと思う。
 このブログに何度も登場する 901 さんや plinco さんと一緒に月に1度ウチの家で G3 という音聴き会をやっていることはこれまで何度も書いてきた。基本的にはジャズがメインでそこに時々60年代の懐メロも加わるのだが、毎回決められたテーマに沿ったレコードや CD を持ち寄ってみんなで聴きながらワイワイやるのがたまらなく楽しい。少し前にその G3 で “クラシック音楽のジャズ化” 特集をやった時に 901 さんが “コレ、めっちゃエエねん!リストの「リーベンストラウム」演ってんねんで” とおっしゃって1枚のレコードを取り出された。それが今日ご紹介するアイク・ケベックの「ボサノヴァ・ソウル・サンバ」である。
 まずは何と言ってもタイトルが凄い。ボサノヴァ+ソウル+サンバ??? 一体どんな音楽やってんねん?と思われそうだが、中身は至ってノーマルな穏健派ジャズ、ボッサのユル~いリズムに乗ってブルージーなムード満点のテナー・サックスが楽しめる寛ぎの1枚なのだ。特にサイドメンとして参加しているケニー・バレルのギターが絶妙な味わいを醸し出しており、リラクセイション溢れるプレイを聴かせてくれる。渋いなぁ... (≧▽≦) 
 このアルバムは CD で持っていて何度か聴いているハズなのに、不覚にも内容をよく思い出せず、確か「家路」入ってたよなぁ... それからバレルの「ロイエ」が良かった気がするなぁ... 正直言ってそれくらいの印象しかなかった。確かに一聴して強烈なブロウとかは皆無だし、ボッサの単調なリズムのせいもあってかどの曲も同じように聞こえてしまっていたのだろう。それが今聴くと寛ぎの要素が横溢でめっちゃエエのである。私も plinco さんも “エエなぁ...(^.^)” と喜んでいると 901 さんが我が意を得たりとばかり、“でもな、ホンマはこの次の「シュ・シュ」が一番エエねん!” とおっしゃるので皆で聴いてみることに... リズミカルなイントロに続いてケベックのテナーが滑り込んできた瞬間、一同 “おぉ~” と声にならない声を上げる。何と歌心に溢れたテナーだろう! 目からウロコとはこのことだ。しかも何という名旋律!まさに B面2曲目に名曲アリだ!!! とにかくコレはもう哀愁舞い散るテナーの名演ベスト3に入れたい大名演だ。
 ⑥「シュ・シュ」があまりにも良かったので、結局通して1曲目から皆で聴いてみることになった。ギターのケニー・バレル作の①「ロイエ」、コレも⑥と並ぶ哀愁の大名曲だ。ケベックのテナーも飄々とスイングし、そこに艶めかしいバレルのギターが絡んでいくという理想的な展開に涙ちょちょぎれる。それ以外にもドヴォルザークの③「ゴーイン・ホーム(家路)」やリストの⑤「リーベンストラウム(愛の夢第3番)」といったクラシックの名曲が見事にジャズ化されており、どっちの原曲も聴いたことがない私でも十分楽しめた。④「ミー・ン・ユー」や⑧「ファヴェーラ」でもケベックの肩の力の抜けたプレイがエエ感じ。実はこのレコーディングの3ヶ月後に彼は肺ガンでこの世を去るのだが、そんなことは露ほどにも感じさせない素晴らしいプレイの連続である。決して出しゃばらず寄り添うように唄うバレルのギターは助演男優賞モノだ。これはもう匠の技という他ない。
 このアルバムはバリバリのコアなジャズ・ファンよりも、ポップスや歌謡曲も聴く音楽ファンにオススメしたい “G3 認定ジャズ裏名盤”(←スイ○グ・ジャー○ル誌選定ゴールド・ディスクなんかよりもずっと信頼出来まっせ... 笑)の1枚なのだ。

アイク・ケベックのシュ・シュ