昨日 “クラシック音楽のジャズ化” 特集のことを少し書いたが、以前はジャズメンがクラシックの曲を演っていると聞くといつもネガティヴに捉え、色眼鏡で見ていた。実際、クラシックのジャズ化を大々的に謳ったジャック・ルーシェの「プレイ・バッハ」シリーズは完全にクラシック寄りでどれもこれもスイングしないトホホ盤ばっかりだったし、モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)のリーダー、ジョン・ルイスに至っては、グループの音楽にクラシックもどきの演奏を持ち込むという暴挙に出て鬱陶しいことこの上なく、 “コレのどこがジャズやねん!” と言いたくなるような眠たい演奏は虫唾が走るほど嫌いだっだ。
そんな “クラシック = 眠たいからイヤ” な私が唯一ハマったのがオイゲン・キケロというピアニストの演奏だった。キッカケは3年ほど前の G3 で「Softly As In A Morning Sunrise(朝日のようにさわやかに)」というジャズの有名スタンダード曲の特集をやった時に 901 さんが “冗談半分で” 持ってこられたキケロの「バッハのソフトリー・サンライズ」がそもそもの始まりだった。その旋律はタイトルとは裏腹にベンチャーズの(というかジョニー・スミスの)「ウォーク・ドント・ラン」だったが、そんなことよりもハジけるようなタッチでギンギンにスイングする彼のスタイルにすっかり惚れ込んでしまった。その日からネットでの情報を頼りに私のキケロ探究が始まった。彼はルーマニア出身のピアニストで、1960年代後半にドイツの MPS レーベルからショパン、チャイコフスキー、リスト等の作品集を出しているが、そんな中でも傑出した内容を誇っているのがデビュー・アルバムの「ロココ・ジャズ」なのだ。
私は全くクラシックを聴かないので、曲名を見ても「XX曲 ○短調」とか、「XX組曲 第○番」とか、何のこっちゃサッパリなのだが、大切なのはジャズとしてスイングしているか否か、その一点に尽きる。私は彼のMPS 時代の音源をほとんど聴いたが、原曲がクラシックとはとても思えないぐらいバリバリにスイングしているのだ。そしてその原動力となっているのがドラムスのチャーリー・アントリーニだった。管入りハードバップであろうが、ピアノトリオであろうが、フォービート・ジャズを演らせたらヨーロッパでこの人の右に出る者はいない、と言われるぐらい強烈にスイングする人である。そんな彼が超高速ブラッシュ・プレイでキケロを煽りたて、それに対してキケロがノリノリのプレイで応えるという理想的な展開だ。バッハ?何様や?チャイコフスキー?それがどーした?誰の曲でもワシがスイングさしたるでぇ~... みたいな潔さが痛快だ。
アルバム1曲目の①「ソルフェジオ・ハ短調」、いきなりの疾走系ピアノ・トリオ・ジャズだ。さっきクラシックは退屈と書いたが、その眠たい部分をキレイサッパリ削ぎ落とし、キャッチーなサビのメロディーを中心に高速でインプロヴィゼイションを展開していく。コレはたまらない。息をつく間もなく過ぎ去っていくハイ・テンションな5分43秒だ。②「スカルラッティのソナタ・ハ長調」、まるでイタメシのメニューみたいな名前のこの曲は聞いたことのないメロディーだが、相変わらず一糸乱れぬピアノ・トリオ・ジャズが楽しめる。キケロの流麗なプレイを支えるアントリーニのブラッシュがエエ仕事しとります(^.^) ③「クラヴサン曲集から小さな一生」でもやはり満を持したように0分34秒でブラッシュがスルスルと滑り込んでくる瞬間が鳥肌モノ。変幻自在のブラッシュ・プレイに息をのむ1曲だ。
④「バッハのソフトリー・サンライズ」は私でも知っている “チャララァ~ン♪” というフレーズが導入部に使われており、そこから一気にベンちゃんの「ウォーク・ドント・ラン」へとなだれ込む。キケロの躍動感溢れるピアノとアントリーニの瀟洒なブラッシュが生み出す歯切れの良いスイング感が絶品だ。⑤「幻想曲・ニ短調」はスローな前半部が眠たいが、2分28秒から一気に加速するところがエエ感じ。後半部はオスカー・ピーターソンばりの力強いタッチが楽しめる。⑥「マタイ受難曲より 神よあわれみたまえ」は以前ラジオ番組で日本チャーリー・パーカー協会の辻バードさんが “人類史上最高の曲” と大絶賛していたが、一体コレのどこが人類史上最高やねん?どうやら私の一番苦手な眠たいパターンがクラシックのファンには最高らしい。コレは私的には要らない曲だ。できれば最後までノリノリで行ってほしかった(>_<)
このアルバムはジャック・ルーシェやジョン・ルイスのように変にクラシックに媚を売ることなく、あくまでもクラシック曲をジャズの素材として取り上げ、その旋律の美味しい所を活かして目の覚めるようなスインギーなジャズに仕上げた画期的な1枚だと思う。
オイゲン・キケロ バッハのソフトリー サンライズ
そんな “クラシック = 眠たいからイヤ” な私が唯一ハマったのがオイゲン・キケロというピアニストの演奏だった。キッカケは3年ほど前の G3 で「Softly As In A Morning Sunrise(朝日のようにさわやかに)」というジャズの有名スタンダード曲の特集をやった時に 901 さんが “冗談半分で” 持ってこられたキケロの「バッハのソフトリー・サンライズ」がそもそもの始まりだった。その旋律はタイトルとは裏腹にベンチャーズの(というかジョニー・スミスの)「ウォーク・ドント・ラン」だったが、そんなことよりもハジけるようなタッチでギンギンにスイングする彼のスタイルにすっかり惚れ込んでしまった。その日からネットでの情報を頼りに私のキケロ探究が始まった。彼はルーマニア出身のピアニストで、1960年代後半にドイツの MPS レーベルからショパン、チャイコフスキー、リスト等の作品集を出しているが、そんな中でも傑出した内容を誇っているのがデビュー・アルバムの「ロココ・ジャズ」なのだ。
私は全くクラシックを聴かないので、曲名を見ても「XX曲 ○短調」とか、「XX組曲 第○番」とか、何のこっちゃサッパリなのだが、大切なのはジャズとしてスイングしているか否か、その一点に尽きる。私は彼のMPS 時代の音源をほとんど聴いたが、原曲がクラシックとはとても思えないぐらいバリバリにスイングしているのだ。そしてその原動力となっているのがドラムスのチャーリー・アントリーニだった。管入りハードバップであろうが、ピアノトリオであろうが、フォービート・ジャズを演らせたらヨーロッパでこの人の右に出る者はいない、と言われるぐらい強烈にスイングする人である。そんな彼が超高速ブラッシュ・プレイでキケロを煽りたて、それに対してキケロがノリノリのプレイで応えるという理想的な展開だ。バッハ?何様や?チャイコフスキー?それがどーした?誰の曲でもワシがスイングさしたるでぇ~... みたいな潔さが痛快だ。
アルバム1曲目の①「ソルフェジオ・ハ短調」、いきなりの疾走系ピアノ・トリオ・ジャズだ。さっきクラシックは退屈と書いたが、その眠たい部分をキレイサッパリ削ぎ落とし、キャッチーなサビのメロディーを中心に高速でインプロヴィゼイションを展開していく。コレはたまらない。息をつく間もなく過ぎ去っていくハイ・テンションな5分43秒だ。②「スカルラッティのソナタ・ハ長調」、まるでイタメシのメニューみたいな名前のこの曲は聞いたことのないメロディーだが、相変わらず一糸乱れぬピアノ・トリオ・ジャズが楽しめる。キケロの流麗なプレイを支えるアントリーニのブラッシュがエエ仕事しとります(^.^) ③「クラヴサン曲集から小さな一生」でもやはり満を持したように0分34秒でブラッシュがスルスルと滑り込んでくる瞬間が鳥肌モノ。変幻自在のブラッシュ・プレイに息をのむ1曲だ。
④「バッハのソフトリー・サンライズ」は私でも知っている “チャララァ~ン♪” というフレーズが導入部に使われており、そこから一気にベンちゃんの「ウォーク・ドント・ラン」へとなだれ込む。キケロの躍動感溢れるピアノとアントリーニの瀟洒なブラッシュが生み出す歯切れの良いスイング感が絶品だ。⑤「幻想曲・ニ短調」はスローな前半部が眠たいが、2分28秒から一気に加速するところがエエ感じ。後半部はオスカー・ピーターソンばりの力強いタッチが楽しめる。⑥「マタイ受難曲より 神よあわれみたまえ」は以前ラジオ番組で日本チャーリー・パーカー協会の辻バードさんが “人類史上最高の曲” と大絶賛していたが、一体コレのどこが人類史上最高やねん?どうやら私の一番苦手な眠たいパターンがクラシックのファンには最高らしい。コレは私的には要らない曲だ。できれば最後までノリノリで行ってほしかった(>_<)
このアルバムはジャック・ルーシェやジョン・ルイスのように変にクラシックに媚を売ることなく、あくまでもクラシック曲をジャズの素材として取り上げ、その旋律の美味しい所を活かして目の覚めるようなスインギーなジャズに仕上げた画期的な1枚だと思う。
オイゲン・キケロ バッハのソフトリー サンライズ