カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

友和さん嫌な人   葛城事件

2021-10-31 | 映画

葛城事件/赤堀雅秋監督

 最初から、何か不穏な空気が漂っている。無精ひげを生やした友和さんが、何かふてぶてしく不機嫌にしている。なんでこうなってしまったのか……、ということで、時系列がバラバラになって、過去のことが徐々に明かされていくようになる。家の主の男は、金物屋の後を継ぎ一国一城の主として、念願のマイホームを手に入れ、二人の息子にも期待をかけて、まさに我が人生の頂点に君臨していたことがあった。誰もが羨むしあわせを体現している男として最高の自分というものを持っており、そうしてその考えがゆるぎないことから、これからもしあわせが続いていくはずだったのだろう。
 ところがこのお父さん、自分の正当性のための理屈が、ものすごくめんどくさいのである。言っていることの総てが間違っているとは言えないのだけど、しかし何か非常にひねていながら巡り巡って正当化される理屈の道筋の流れの中に、多くの欺瞞があり、捏造があり、そうして恫喝があるのだ。妻や子供たちは、この絶対的な父の理屈の前に(その前にめんどくさいからかもしれない)ただ静かに我慢を強いられ、抑圧され、謝罪させられ、絶望している。そうして解決策として逃げ出すことも試みるが、そうすると従順な長男が、居場所を父に密告してしまうのだった。
 一定の画面の暗さがあって、ずっと何か大きな暴力が暴発する雰囲気が漂っていて、観ていてものすごくつらい時間が続く。そうして友和さんが何かを語りだすと、その語りにも行動にも、暴力の影がさらに色濃くなっていくのだ。それに耐えるよりないことは分かっており、しかし反抗心が無い訳ではない。誰かが爆発するはずで、その爆発のさせ方は、どうなってしまうのだろうか。
 ということで、それぞれが自分なりのやり方で、爆発する。厳密には壊れていく。人間がどうやって壊れるのか、という実証映画ということなんだろうか。実は友和さんだって最初からそれなりに壊れているはずなんだけど、周りから派手に壊れてしまうので、なんだか一番小物だったりする。そういう部分も含めてよく出来た映画で、俳優さんもみんな頑張ったなあ、という感じかもしれない。見終わってもしばらく嫌な感じはのこるわけで、もう最悪である。でもまあ、そういう映画なんだから、いい映画ではないが、凄い映画なのである。皆さん、打ちのめされてください。
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