ザ・サンドロマット‐パナマ文書流出‐/スティーブン・ソダーバーグ監督
劇中劇が入っているというか、説明する人物が直接見る人に語り掛けてきたりするが、でもそのまま演技に戻ったりする。変な演出であるにしろ、これが効果的なのは間違いない。不思議なビート感のようなものが感じられる。
ある女性が乗った船が転覆し、夫のほか20名以上が亡くなる大惨事となる。しかしこの船舶を所持していたオーナーが、経費節減のために安い保険に加入しており、その保険の責任を取るべく会社は転売されて、明確な所在が分からなくなってしまっていた。多くの人は泣き寝入りするしかない(法的には合法という判断なんだろう)状況になるが、女性は納得がいかず、おそらく夫の個人の生命保険などで金があったのだろう、南米のタックスヘイブンと言われる島まで出向いて、責任の一端のありそうな会社を訪問するのだった。ところがそこには私書箱のようなものがたくさんあるだけのところで、会社の責任者は頻繁に移動するなどの理由で、よく分からない。同時に司法当局もこの事態を重く見て、調査に乗り出していくことになる。
実話をベースにしているので、どうなるのかはわかる話ではある。しかしながらその内実というのは、単純ながら込み入ってもいる。何しろ合法とはいえ、合法めいた怪しく違法な匂いのする手続きの連続で、そうしてそれに絡む大きな金の動きがあって、それにかかわる権力者や金持ちの数が連綿と続くのである。日本でも大きなニュースとして取り上げられたし、一定の人がやり玉に挙がってつるし上げを食らうことに発展した。しかしながら嵐が去った現在のことを思うと、あれはいったい何だったのか、という気もしないではない。それこそがこの事件の特殊で奇妙な物語とも同調している。まさにこんな感じだったのだろう。
さらりと下品なエピソードも絡むし、恐ろしい殺人も起こる。しかしそこには人間の欲望と教訓が埋没しており、その軽妙な語り口とともに、何か嫌な感じと憧れめいたものが混在して見えるようになる。何が正義で、何が本質かよく分からない。しかしながら、それでもダメなものは駄目であるというアメリカ的なものだって見えてくるのである。どんでん返しというのではないかもしれないが、やっぱり演出が上手い、というしかないであろう。