テレビでスナメリのことをやっていた。僕の住むまちの面前には大村湾という海が広がっており、そこにスナメリが生息していることが知られている。そうだけれど、スナメリというのは日本の沿岸部ではどこでも見られる生き物らしい。ただし、北端は松島湾と言われているので、あんまり北すぎると居ない。比較的暖かい水深の浅い沿岸部に好んで住む習性があると考えられている。
そういう訳でなじみがあって知られた存在ではあるけど、あんがい警戒心が強くて、そんなに頻繁に目にすることができない。琵琶湖より少し小さい湾内に300程度の個体数がいると言われているが、それくらいなので、特に絶滅が危惧されている地域ともいわれている。体は白っぽいので水面近くにいると気配は分かるが、息継ぎなどをするとすぐに潜ってしまう。さらにイルカなどとは違って背びれがない。ツルンとした体つきをしていて、一瞬見えるかどうかというタイミングでしか姿を見せない。僕は沿岸沿いの小高いところでボーッと海を見ていて数度見たことがあるくらいで、それもあれがそうだったんだよな、という程度である。頑張って注意して見ていても、そうそう拝めるものではない。
僕の子供のころにはそんなに話題にはなっていなくて、むしろ大村湾では昔クジラ漁が盛んだったという歴史を習っている程度だった。それがいつの間にか、スナメリという小さいクジラがいるんだという話が、持ち上がるようになっていった。クジラといってもクジラもイルカも同じ仲間で、単に大きさで区別しているに過ぎない。それにスナメリはネズミイルカの仲間とされている。大きくなっても1.5メートルくらい。くちばしはほとんどなく、おでこにメロンと言われる脂肪の塊がある。ここから超音波を出して、地底の海老やイカなどを見つけることができるのだそうだ。そういうことで顔が丸まっており、そういう特徴がネズミの顔に似ている種類とされているのだろう。
しかしながらそういうスナメリが、頻繁に目撃される場所があるという。それも名古屋や銚子など、船が頻繁に出入りする港や、工場が立ち並ぶ沿岸部にこそ個体数が多いのだという。テレビではドローンを使って撮影していたが、上空から見ると、それなりに確認が容易であった。これまで群れを作らないとされていたが、場所によっては100を超える群れを作って泳いでいた。さらに魚を狩る能力も高く、湾内にいるボラなどの群れを追って獲っていた。集団で挟み撃ちにするなど、共同しての狩りをすることなどが新たにわかった、と言っていた。沿岸部に住みながら、警戒心が強いために(または背びれがないので気づかれにくい)、生態については謎の多い生き物のようだ。
大村湾では絶滅が危惧されるほど個体数が少ないが、そもそも沿岸部の温暖な海を好むことから、人間の生態系と近い環境で生きていきやすい生き物かもしれない。工場の暖かい排水であるとか、運搬船などが行きかう環境で、人間の漁船が漁をしにくいところだから魚を狙いやすいなど、うまく適応して暮らしている様子だった。
地元では、自然豊かな海が残っているからそこスナメリが生息できるという趣旨で、スナメリが環境問題を考えるための動物、という位置づけで語られることが多い。もちろんきれいな海である方が望ましいには違いないだろうけれど、人間が暮らすうえで静かになりすぎた海では、かえってスナメリが過ごしやすい環境であるとは言えない可能性があるようだ。田舎の海だからこそ、スナメリは生体数を減らしているかもしれない。そうでない方が、ロマンはあるかもしれないけれど……。