カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

「ごはんですよ」の思い出

2021-10-03 | 

 子供のころはテレビっ子だったはずなんだが、テレビCMなどはあまり覚えていない。今でもそうだけど、せっかちな性分があって、CMが流れている時間がまどろっこしい。見ていることは見ているはずだが、その時間にトイレに行ったり、何か雑誌を拾い読みしたりしたくなる。ただ待っている感じが嫌なのかもしれない。
 しかし、妙に印象に残っているのが、桃屋の「ごはんですよ!」のCMなのである。当時は、三木のり平のアニメで流れていたあれである。なんでだろうと考えてみると、これにはいろいろとあることが自分なりに思い出された。
 それというのも、このCMのことで友達に馬鹿にされたのがきっかけだったのだ。その友達が、「ごはんですよ」をかけて食べないと御飯はおいしくないというのだ。しかし僕は、その「ごはんですよ」がピンと来ない。お前はそんなことも知らないのか! という訳である。その時に周りにいた数人であると思われるが、その全員が「ごはんですよ」のファンであるという(当時はそんな言葉ではなかったが、要するにみんなそういう風にしてご飯を食べるものだという常識があったのかもしれない)。僕だけがのけ者にされたような気がして、ひどく恥ずかしく悔しかった。そうして家に帰って、母に「ごはんですよ」が食べたいと懇願した。ところが母も、「ごはんですよ」がなんであるのかピンときていないようだった。お互いが知らないものの話をしてもしょうがない。ついでがあれば買ってくると約束したはずなのに、どういう訳か母は毎回買い物をしているときに「ごはんですよ」を買い忘れてくるのだ。そういう訳でしばらくの間だろうが、何か家で食事をするたびに、悔しいようなもどかしいような気がしていた。
 そうやってウジウジしていたのだろうと思うが、その当時何故かこれを父が聞き及んで、じゃあ買いに行こう、ということになった。父が家で飲んだくれていないことなんてあんまりなかったはずだが、その時は車の運転ができたらしい。それでまだ開いている商店を探して(当時は夜に開いている店は少なかった)、「ごはんですよ」を買いに行った。いったいどの商品棚にそんなものが売ってあるのか、僕には見当もつかなかったが、とにかく「ごはんですよ」のビンは見つけ出した。買い物だから母もついでに何か物色していた様子だが、僕は早く家に帰ってこの「ごはんですよ」を開けてみたい。もう手に入れたのに、ものすごくまどろっこしいのである。
 そうやってやっとの思いで家に帰って白いご飯に「ごはんですよ」を載せて食べたのだ。で、「あ」っと思った。食べたことがあるのだ。だって「ごはんですよ」は岩ノリである。旅館か何かの朝ごはんで、これのようなものを食べたことがある。でもそれが「ごはんですよ」と同種のものだとは、知らなかったのだ。ということは、父も母も「ごはんですよ」が岩ノリだということを知らなかった可能性がある。だって何にも僕には説明してくれなかったから。
 かなりがっかりしたのだが、しかしこの岩ノリのおかげで、僕はなんとなく目が覚めた。友達が知っているようなもので僕の知らないものなんて、そんなにたくさんあるものではないのではないか。またテレビCMでやっているようなものは、落ち着いて確かめてみると、中身がなんであるのか分かりそうなものではないか。父も母もあんまりまじめにCMを見ていなかったらしいことと、僕も同じように気にしていなかったらしいことがこれで判明した。
 しかしこのことがあってから、CMが流れるたびにすぐに目がテレビに集中するようになった。あれがあの「ごはんですよ」事件の原因である。三木のり平は、あまり清潔感のあるような喜劇役者ではなかったはずだが、このあんまりゲラゲラ笑うようなネタでもないはずのCMが、憎らしくもそれなりに面白いのだった。
 しかしながらその後も、「ごはんですよ」としての岩ノリは、僕のうちの定番にはならなかった。時々この商品でない岩ノリが朝食に出ることがあって、それは「ごはんですよ」ほど甘く濃ゆい味ではなく、しかしそれは僕好みだった。岩ノリはあんなに味が濃くなくて、しかし磯の風味豊かなものの方がいい。しかしそういうのって、母はいったいどこで買ってきたのだろうか。
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