カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

作り込まれた実話の在り方   アイリッシュマン

2021-10-23 | 映画

アイリッシュマン/マーティン・スコセッシ監督

 原作は実在の人物である伝説の殺し屋のことを描いた、ノンフェクション作品があるらしい。描かれているのは、ニクソンやケネディ大統領時代に活躍した、有力な裏社会の人間たちであるようで、アメリカ人であれば誰でも知っているような有名な人々なのだろう。
 Netflix作品で3時間29分もある。もっともエンドロールが10分もある。まとめてみる必要は無い作品かもしれない。かといって連続ドラマのような、来週もお楽しみに、という切れ間が無い訳だが……。
 元々はトラック運転手だったが、トラック協会の会長に仕え、さらに裏社会の仲間にも仕えている。完全な部下というより、ちょっとした友人以上ということなんだろうか。そうして殺しが上手いので、都合の悪くなった人々を、その都度殺していく。それにはそれなりの理由があり、そうしてマフィアなりの仕組みがある。殺しの上手い人物は、物事が進んでいくうえで重要なのは間違いがない。そうしてそれらの秘密は、皆が年を取り、一番長生きをした者だけが、語ることができる内容ということなのかもしれない(つまり本当かどうかは、本当には分かりえないのではないか)。
 殺し屋(運転手)の男にロバート・デ・ニーロ。組合長の大物がアル・パチーノ。そして、裏社会の暗躍者がジョー・ペシである。皆1940年代初めの生まれという大ベテランばかりの演技合戦も見ものである。実際なんだかすごいことになっていて、改めて彼らの演技力に舌を巻かれて欲しい。
 一応語りもあるのでまったく意味が分からないことは無いが、書かれている事実を追って物語が進んでいって、その意味するところがよく分からない演出もけっこうある。頭の中で意味を埋めていって、たぶんそういう都合の一つだよな。ということを考えてもらいたい。ふつうに会話しているようでいて、感情の駆け引きなどもある。ヤクザたちは何を気にして何を気にしなかったか、ちょっとちぐはぐな印象も受けて、ひょっとするとギャグかもしれなくて、なかなかむつかしい謎解きのようでもある。そうしてそれが、結局権力や背後にある力関係によって、人生とは翻弄されていくながれのようなものらしい。そうしてそれらは家族であっても理解不能な場合もあるんだよ、ってことなんであろう。
 演技を楽しんで観ていって、最後にはお腹いっぱいでじんわりと余韻を楽しもう。何かは守られたかもしれないが、何かはそのために損なわれてしまった。そうしてもうそれらは、おそらくもう二度と戻って来てはくれないのだ。人を殺してもいい社会のありようって、やっぱりなんだか恐ろしいですけどね。
コメント
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