カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

運が悪かったが、運を出し切った   1917命をかけた伝令

2020-11-25 | 映画

1917命をかけた伝令/サム・メンデス監督

 第一次大戦時の連合軍側の兵士二人(英国)が、通信網が途絶えて連絡の取れなくなった前線へ、ドイツ軍の罠が待っているために攻撃を中止するとの伝令を伝えるよう命じられる。前線を隔てているのは長く連なる塹壕で、お互いがその塹壕の中から攻撃を仕掛けあう状況で向かい合っている。連合軍側はそれなりに有利に攻め込んでおり、そのためにドイツ軍は大きく撤退している。この状況で、さらに打撃を加えるべく、最前線の部隊は総攻撃を計画していた。
  ところが、航空機などによる視察でみる敵陣の様子では、深く撤退後に兵を固めており、これはいわば罠であることが分かった。前線への通信が途絶えているのだが、その前線で兄が戦っている兵士とともに友人である上等兵二人を、明日の朝までに総攻撃前の最前線へ伝令に送ったという訳だった。
 最初から妙なカメラワークだと思っていたら、ほとんどワンテイクで撮ったようなやり方で二人の様子を延々と映していく。二人が進んでいく長い塹壕の中と、馬や兵士の死体が置き去りにされている中間帯の悲惨な様子。鉄条網を超えて敵方塹壕や、地下待機所など、当時の戦場のリアルな様子もくまなくわかる。人間は食料が乏しくひもじくしているが、人間とともに塹壕生活をしている鼠は丸々と太り(死んだ兵士などを食っているのだろう)、そのコントラストも凄まじい。特撮であろうけれど、二人の関わる状況にドイツ軍の飛行機が落ちてきて、とりあえずパイロットを助けると悲劇が起こる。さらに伝令の使命が増して、伝令の兵士は、まさに自分の命ぎりぎりの状態で前線の味方の軍を探していくのだった。
 戦闘シーンもリアルだし、いきなり線上に観客は放り込まれて、実体験の戦争という雰囲気を味わうことになる。実際には分からないようにいくつかカットは挟んであるが、長いシーンと軽妙に合わさっていて、ほとんど気にならないつなぎになっている。時間の経過は端折ってあるが、ほぼこの兵士の体験する一日一晩の流れを、そのまま観客も体験する指向だ。これがものすごく上手くいっていて、素晴らしい映画に仕上がっている。戦場の緊張感や、まさに一瞬で形勢が変わる命の駆け引きや、隠れている住人とのふれあいや、この青年の心の動きなどが、見事に表現されている。はっきり言って稀に見る傑作である。これほどの映画は、そうそう作られるものではないだろう。
 映画の表現というのは、まだまだ可能性があるな、と改めて感じさせられる。実話が元なのだろうが、戦場がどのようなものなのかというのは、思想などを排除して考えるのはあんがい難しい。それに歴史なのだから、どうしても現代人の目が入ってしまう。そういうもろもろを削ぎ落しても、一回性の歴史の再現というのは極めて難しいものだ。それならいっそのこと、同じように実際にやってみてはどうか。そういう気位を感じる作品になっている。体験としての戦争を、ぜひとも観るべきであろう。
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