カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

純情な動機なら行動をしていい社会   続・激突!カージャック

2020-11-21 | 映画

続・激突!カージャック/スティーブン・スピルバーグ監督

 窃盗の罪で収監後出所してきたルー・ジーンだったが、息子は保護のため里親に出されていた。息子を取り戻したい一心で服役中の夫を無理やり脱獄させる。そのとき夫の友人の年老いた両親の車で上手く逃げ出すことができたわけだが、この車があまりにノロノロで迷惑運転とされパトカーに止められそうになってしまった。これを脱獄が見つかったと勘違いした二人は、車を奪って逃走。さらに追跡してきたパトカーの警官の拳銃を具合の悪いふりして奪ってしまう。今度は警官を人質に取りパトカーで逃走するのだった。
 自分たちが悪いというのをとりあえず棚に上げて置いて、息子を取り戻したい気持ちが先走っての逃走劇なのだが、多くのパトカーに追われ、さらにこの事件を聞き付けたマスコミ報道により、この犯人たちに同情する市民たちが連なって追っていくという車の大行列になる。そのおおげさな感じがいかにもアメリカ的で、スペクタクルで無邪気な犯罪コメディになっている。
 またこの映画はスピルバーグの劇場デビュー作である。しかしその前に、スピルバーグはすでにテレビ・ドラマでいくつか話題作を作っており(コロンボ・シリーズの一つも撮っている)、特にこの「続・激突」とある通り、名作ホラー「激突!」というテレビ作品で非常に高い評価を受けていた(「激突!」は日本やヨーロッパでは劇場公開もされた。多くの批評家や作家などがが絶賛し、例えば僕は吉行淳之介の文章を読んで、そんなに凄い映画なのか、と思って記憶にとどめたほどだ)。今作品は、それとはまったく関係がないにもかかわらず、日本語のタイトルは、紛らわしくもそういうことになってしまった。誤解して観た人は、かえって幻滅したことだろう。当時の日本の配給会社のいい加減さというのは、実に犯罪的である。
 実話をもとに作られた作品だが、恐らくこの事件は、全米的にそれなりの話題性と記憶に残るものだったのだろう。そういう題材をスピルバーグは任されて、疑似ドキュメンタリー的なものと、独自の解釈を交えた演出を行っている。日本人の目からすると、犯人の、特に主犯であるルー・ジーンのわがままさには、ほとんど共感ができない。自業自得である上に、多くの人々を巻き込んで、迷惑である。しかしアメリカ人の純情な大衆は、このような行動に一定の共感を持っていることが分かる。だから、無理を通そうとしているにもかかわらず、何とかその思いを成し遂げられるように、行動を共にするような人々が現れるのである。さらに人質である警官も、追っている警官も、何とか説得して止めさせたいとも、同情しているともいえる。そういう中途半端さが更に犯人たちの行動を助長させてしまっている。結果的に大きな悲劇となってしまうわけだが……。
 後の大監督スピルバーグを考えると、その多くのアイディアが見て取れる作品ではあるのだが、出来栄えが特にいいとは言えない。暇だったらどうぞ、という程度であろう。
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