カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

ヤマメとサクラマス。どちらが勝者?

2016-09-24 | Science & nature

 渓流釣りなどでは人気の高いヤマメ。水の澄んだ上流の川でよく見られる。斑点模様があって、見た目も特徴のある美しい魚である。北海道から九州まで広く分布し、地方では呼び名なども微妙に異なる。さらに同じ魚ながら、川によって多少の生態が異なる。人間の目からということになるが、特に北に住むヤマメというのはずいぶん変わっていて、北の渓流の厳しい自然で生き抜くために、ずいぶん個体の変化の激しい魚なのである。
 ヤマメの餌となる水中昆虫などは、渓流でも上流の瀬に集中して流れに任せて漂ったりしている。ヤマメの稚魚は、この渓流のポジションどりで、大きく成長が違う。場所争いに勝ち出来るだけいい場所を確保できた個体は、多くの餌にありつきどんどん体を大きくする。そうするとますます強くなって、いい場所を独占し続けることが出来る。滅多に餌にありつけない個体は、小さい体のまま場所取りに負け続け、水生昆虫の少ない下流域へ下って行かざるを得ない。細々と食いつなぎながら、段々と下流へ流されるように下っていく。その経過において模様も銀色めいていき、淡水から海水にも適応できる体へと変化していく。そうしてついには大海原へ、その生き方を大きくシフトしていくのである。
 渓流では体の大きな強い個体の主にオスのみが君臨し、生存競争に負けたオスや多くのメスたちは、大海原へ旅立つ。川に戻ってくる個体は0.1%をはるかにしのぐといわれている。渓流での競争に敗れたヤマメは、厳しい大海原で生存をかけて生きていかざるを得ないのである。
 ところが海へ飛び出したヤマメには、リスクがあるとは言いながら、渓流とは桁違いの豊富な資源のある海で、どんどんと体を大きくしていくのである。渓流では大きな個体といってもせいぜい20センチ(条件によっては40センチに達する例もあるとはいうが)だが、海で成長したものは60センチにも達するほど成長する。そうしてそのような海の個体は、姿かたちもヤマメでは無く、サクラマスという個体へ変貌しているのである。生態を知らずに姿だけを観て、ヤマメとサクラマスが同じ個体だと判断できる者は無いだろう。まったく別の種別だと思う方が自然なくらいの大きな変化である。
 人間の目から見てこの成長の変化は、人生の大逆転に例えられる。ある場所でダメだったとしても、別のところで開花する人生もあるだろう。最初に負けたからといって、最終的にはオオモノになる人間もあるだろう。
 ところで産卵のために遡上してきたサクラマスのメスは、当然小さなヤマメのオスなどは相手にしない。サクラマスのオスに寄り添われ産卵を促され、そうしてサクラマス同士で寄り添いながら産卵を行う。ところがその瞬間に岩陰に隠れていたヤマメのオスたちは、その小さな体を生かして、機敏にサクラマスのメスの体の下に回り込み、同時にちゃっかりと射精を果たす。受精する卵のどれくらいがヤマメのものかは知らないが、確実にヤマメも自分の子孫を残していると言われる。もともと同じ魚なので、生まれた稚魚がどちらに由来するものはは分からない。さらにヤマメやサクラマスの人生に、どちらが勝者といえるのかは、やはり限りなく分からない話なのではないだろうか。まあ、どう思うかという人間の勝手な思いはあるのだろうけれど…。
コメント
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