僕の若いころには、詩人は21、ロックスターは24までしか寿命が無い、と言われた。詩人は病弱とか食えないとかいうこともあるのかもしれないが、ロックスターは不健康なので、ドラッグや事故などで若くしてよく死んだ。もっとも平均寿命はもっと長かったろうが、多くの人が早死にするのが当たり前に思われていたのだろう。また、やはりあちこちのステージでお呼びがかかるので、移動するときに事故に会うというのもあったのかもしれない。特に国土の広い米国などは、飛行機で移動する必要がある。当時の航空機はあんがいよく落ちて、よく乗っている人が当然犠牲になる。また自家用機のような小さい機体の方が、不安定で落ちたということもあったかもしれない。そのおかげで航空機は目覚ましく発展したとも言われていて、まあ、そんなに無駄な死でも無かったかもしれないが。
ところが近年のロックやポップなどの芸能の世界の人は、実はかなり健康に気を使う人が多いのだという。食事に気を遣い、よく運動する。中にはいまだにドラッグをやっている人もいるのかもしれないが、ステージで客の期待に応える精神的な圧力のために、つい手を出すということかもしれない。でも結局そんなことをしても長くは続けられない。以前は常習の噂のあった人も、ほとんどは止めてしまうのだという。
以前はレコードが売れたら、それなりに印税が入って生活が安定した。余裕があるうちは派手に使っても気にならない。また人前からしばらく消えても、またレコードの発売を待ってくれる息の長いファンもいたのかもしれない。ところが現代になると、すっかり固形物としてのCDなどは売れなくなった。ヒットしている曲の目安は、何回ダウンロードされたか、ユーチューブなどで再生されたかという回数が目安になっている。そうして世間に拡散されて、人々はその人のステージを見に行くようになる。要するに活動をやらない限り収入が増えない。だからまともなスターというのは、ステージで安定したパフォーマンスを続けてやれる人ということになるようだ。人が集まる場所では、それなりに動かないと目立たない。ダンスも踊らなければならないし、張りのある歌声も、それなりに維持する必要があるのだろう。さらに往年のスターは家族も増えているし、昔は喧嘩した仲間もまた一緒にやらないと生活できないと懇願される。嫌でも体を鍛え直して、表に立たざるを得ないのだろう。
そういうのが果たして健康的と言えるのかは微妙な気もするが、少なくともロックスターの寿命は、これからも伸び続けるのではないだろうか。