マッコイ・タイナーのリーダー・アルバム「バラードとブルースの夜」は、その名が示すように、夜、心静かにジャズに耳を傾けたいときにお薦めの一枚である。
1963年にインパルスからリリースされたもので、収録曲はすべてスタンダード・ナンバー、親しみやすく接することができる。
「サテン・ドール」、「ウィル・ビー・トゥゲザー・アゲイン」、「ラウンド・ミッドナイト」、「フォー・ヘブンズ・セイク(お願いだから)」、「スター・アイズ」、「ブルー・モンク」、「グルーブ・ワルツ」、「酒とバラの日々」の8曲。
「サテン・ドール」は、デューク・エリントン、「ラウンド・ミッドナイト」や「ブルー・モンク」は、セロニアス・モンクの作である。
マッコイ・タイナーのピアノの音からは、アクの強いクセのようなものは感じられず、このようなスタンダード・ナンバーの演奏には特に向いているのかも知れない。
彼は、禁酒・禁煙の菜食主義者で、家族を大切に守ったと言う。そのような性格と演奏に表れるものとは無関係ではないだろう。
演奏のメンバーは、ピアノがマッコイ・タイナー、ベースがスティーブ・デイビス、ドラムがレックス・ハンフリーズの3人。
西脇順三郎「旅人かへらず」の75
誰が忘れて行ったのか
この宝石
この極光の恋を
二行目の「宝石」を変えて遊ぶことができる。
例えば、「ミシン」や「こうもり傘」でも成り立つ。
読者は、それなりに受けとめるはずだ。
この75番の三行は、168番まで並ぶ流れのなかにあること、まず、西脇順三郎が、作ったと言うことが大切だ。
式子内親王・まどちかき竹の葉すさぶ風の音にいとどみじかきうたたねの夢
木々が風にざわつく音は、気持ちをさっぱりさせてくれる。
その音は、木によって異なり、竹の葉は竹の葉の音をたてる。
その音を耳にしつつ、はっと気づく、意識を失っていた、うたたねと。
式子内親王の歌を取りあげてきて、これで二十首、一区切りとしよう。
式子内親王・玉の緒よたえなばたえねながらへばしねぶる事のよわりもぞする
百人一首にもあるよく知られた歌。
命をかけても忍ばなくてはならぬ恋とは・・・・・。
式子内親王は、後白河天皇の第三皇女で、賀茂斎院をつとめたりした。
権力をめぐる激しい動きに取り巻かれていた。
特殊な境遇にあったことを思う。
式子内親王・いまさくら咲きぬと見えてうすぐもり春にかすめる世のけしきかな
桜の季節は過ぎてしまった。
でも、この歌も取り上げたい。
その季節には、薄曇り、霞む景色が、それらしい。
式子内親王全歌集・改訂版(錦仁編・おうふう・昭和62年)をかたわらに、気に入った歌をピックアップし、一言づつ、わたしの思いを添えてきた。
見当違いのものもあるかも知れない。
前にも同じようなことをしたと思う。
今回は、あと五つくらい残っている。
式子内親王・ときのまのゆめまぼろしになりにけんひさしくなれしちぎりとあおもへど
夢にだいぶ前に亡くなった友人が出てきた。
仕事仲間の集まりがあって、それが終わって、行ける者たちで飲みに出かけた。
ワイン・クラブみたいな見かけが洒落た店だった。
中は、長いカウンターがあるただの居酒屋。
彼を見て、嬉しくて、「やあ、なくなったとばかり思っていたよ。いま、どうしてるんだ」と声をかけた。
彼の京都での葬儀に行ったことは、夢のなかでは、思い出せなかった。
この夢によって、当時の友人たちのことが、若くて元気な自分達のことを思い出した。