いぶろぐ

3割打者の凡打率は7割。そんなブログ。

ずっと一緒だった

2007-06-08 02:04:20 | 特選いぶたろう日記
あいつと俺とは、ある日突然、出会った。
それこそ劇的な出会いだった。
身体の芯まで揺さぶられるような衝撃を、今でも覚えている。
俺はあいつを必要とした。
俺がすり減らしてなくしてしまった何かを、あいつが埋めてくれる。
そんな気がした。
それはあいつの方も同じだったようで、
あいつはそっと俺の肌に触れてきた。
俺もまた黙ってあいつを受け容れた。

その日からというもの、
あいつはどこへ行くにも俺にくっついて回るようになった。
普段はあまり意識しないようにしていたが、
それでも敏感で世話焼きの周囲からはよく指摘され、からかわれたものだ。
「どうしたの?」「お似合いだよ」「なかなか別れないね~」
俺はといえばあまりムキになって抗弁するのも照れくさく、
「悪いのに引っかかっちゃってね~」
なんて、流したりかわしたり。
でも、それが楽しかった。

あいつは周囲の目があるところではおとなしくしていたが、
家に帰って二人きりになるとよくこぼしたものだ。
特に一緒に風呂に入る時など、
「本当は私と別れたいんでしょ?」
なんて、ちくちくと俺の肘をつねりながら皮肉る。
「そんなこと…あるよ(笑)」
冗談交じりにそう答えると、
あいつはムキになって、急に俺から離れようとする。
待てよ。今行かれたら困るんだよ。
ウソだよ、ウソだって。
壊れそうなモノほど、壊してみたくなるんだよ。
シャーペンの芯を折れるか折れないかのギリギリまで試すようにさ。
でも、本当に壊す気なんか、ないんだ。
慌ててそうとりなすと、あいつは仕方なさそうにこうつぶやいた。
「もう。しょうのない人。そんな風に……私にだけじゃあ、ないんでしょ…。」
俺は押し黙った。
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれなかった。

そんなあいつが、急に俺の前から姿を消したのは、
昨日の朝のことだった。

その日の前の夜は、いつものように一緒にベッドに入ったはずなのに、
今朝目を覚ましたら、あいつはもうどこにも居なかった。
どこだ。どこへ行ったんだ。
家中を探し回り、何度も何度も呼ぶ。
でも、あいつを見つけることは出来なかった。
どうしてだ。
なぜさよならも言わずにいっちまったんだ。
俺たちの今までの日々は…何だったんだ。
お前がいなければ俺は傷を癒すことは出来なかった。
お前がいてくれたからこそ、俺は今日までやってこられたんだ。


…でも、本当は解っていたんだ。
いつまでも一緒にはいられない、
いつかこういう日が来るってことを。
おまえは俺の前に現れたのも突然だったように、
去っていく時もまた、突然なんだ。
解ってた、解ってたんだ。
解ってて何も出来なかった俺は、
ひょっとしたらお前が言うように、
心のどこかでお前との別れを願っていたかも知れないな。
人間なんて勝手なもんだな。

今の俺がおまえに言えることは、たった一言だけ。















……………ありがとう、

かさぶた。



(直径2センチ)


BGM
~哀愁のカサブタンカ~
郷 ヒロ三(ヒロゾウ)
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