真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「高校教師 私は、我慢できない」(1996/製作:IIZUMI Production/提供:Xces Film/脚本・監督:北沢幸雄/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》・業沖球太/製作:北沢幸雄/撮影:佐藤文男/照明:渡波洋行/音楽:TAOKA/編集:北沢幸雄/助監督:瀧島弘義/監督助手:高野しのぶ/撮影助手:鏡早智/照明助手:那雲サイジ/スチール:本田あきら/車輌:UOGIN/ネガ編集:酒井正次/効果:東京スクリーンサービス/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:井戸田秀行・田島健・日暮嫌& Dear Friends/出演:沢口レナ・葉月蛍・福乃くるみ・樹かず・真央はじめ・若井則久・頂哲夫・杉本まこと)。
 キーンコーンカーンコーンと普通のチャイム音から、フニャフニャだかブクブクだか不安感を惹起するシンセが鳴り、全体を抜いた校舎外景にドーンと被せられるタイトル・イン。宝徳学園高校、我慢しない高校教師の松沢香奈(沢口)が、下着をチラリチラリどころでもなく覗かせながら額田王の和歌について語る古文の時間。生徒部隊はそれなり以上に粒も頭数も揃へて来るものの、ヒゲの生徒が居るはヒールを履いた―しかも教室の中なのに―女子は居るはセーラ服ではなく紫のカーディガンを羽織つてゐる者も居るはと、所々の粗が逆に目立ちもする。授業そつちのけで松沢先生に目を奪はれる筒井ヨシユキ(樹)に、桐島か霧島アツコ(葉月)が葉月螢一流の表情を殺した視線を送る。各人にテストが返される、筒井の答案用紙には香奈からの、「愛してる 放課後生徒指導室で待つてゐます」(原文は古文教師の癖に珍かな)とのメッセージが書き添へられてゐた。什器的には保健室に見える生徒指導室、香奈が強引に言ひ寄る形の生徒との逢瀬を、生活指導主任の竹田か武田(杉本)が覗く。訪ねて来た竹田に何だかんだと脅迫風味に迫られた香奈は、開き直り気味に体を任せる、と見せかけて結果的には竹田も喰ふ。香奈は学校を休む筒井を呼び出し、アツコに目撃されてゐることも知らず自宅に連れ込む。中盤といふか要は今作最大の見せ場となる見応へのある一戦を交へた事後、香奈は筒井の右手を手錠で拘束、判り易くいふと監禁飼育する。筒井と香奈の関係は元々、筒井から送つた「先生の世界つてすばらしい 僕もそこに行つてみたい」といふ矢張り答案用紙に書き添へたメッセージに端を発してゐた。
 少し遡つてアルタ前で時間を潰す筒井の姿を一拍挿んで、何のトラックなのか不良感を表すギミックぶりが牧歌的なロック・チューン起動。全員宝徳学園生徒のその他配役、出し抜けに飛び込んで来る真央はじめが、仲間二人(若井則久と頂哲夫)と女を輪姦す不良。福乃くるみは、最終的には前からも頂哲夫に責められる大絶賛濡れ場三番手。最初真央はじめが後ろから福乃くるみを犯すのを見せつけるのだが、その際覗き込む頂哲夫の頭が画面手前を二度派手に塞ぐへべれけな構図は如何なものか。北沢幸雄にせよ佐藤文男にせよ、きのふけふピンクを撮り始めた訳でもなからうに。
 北沢幸雄1996年全五作中第二作、といふよりも寧ろ重要なのは面長々の大美人・沢口レナのピンク映画第一作である点。繰り返しになるがjmdbを鵜呑みにすると、全四作中以降三作は関根和美作が続く。二本見ることの出来た関根組が何れも不遇の扱ひにつき、期待といふか最後の一縷の望みを託し手を出してみたものだが、美し過ぎる業なのか、今回も四捨五入すれば捨てる方の納得し得る出来栄えではなかつた。沢口レナ限定では香奈の口跡は、狙ひ通りのクール・ビューティーな造形なのか単なる棒なのか、甚だ判断に苦しむ領域に終始止(とど)まる。それと美しい瞳を隠しては馬面が残るだけなので、この人にはサングラスが清々しく似合はない。映画本体に話を戻すと香奈が自覚した上でフルスイングする“私の世界”の、周囲を翻弄し倒して臆面もなく、あるいは不自然に継続する模様が全篇を通して執拗に描かれ続ける、末端に関しては。但し肝心要の“松沢香奈の世界”の内なり真実とは果たして何ぞやといふ最も大事な筈の本丸を綺麗に通り過ぎてしまふ故、如何せん物語の腰が据わらない。大体が、前任校でも同種の問題を起こし、挙句にその生徒は自殺したとすらいふのに、宝徳学園を去つた香奈が更に次の高校に赴任する世間の甘さが非現実的。「氷の微笑」のシャロン・ストーンばりにセクシーな沢口レナはお腹一杯に堪能させて呉れる、あくまで裸映画的には遜色ない反面、生徒要員に触れた蒸し返しだが、北沢幸雄の映画は少なくとも表面的な仕上がりはカッチリしてゐるだけに、却つて開いた穴が大きく見える。行間があまりにも空き過ぎてゐる以上、裸映画としては兎も角、裸の劇映画としては全く覚束ない一作。首を縦に振るのか横に振るのかは、純然たる個々人のその時々の割り切りの問題に過ぎまい。


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