「演歌の女 乱れ慕情 艶景色」(2016/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:加藤義一/編集:有馬潜/音楽:石川真平/選曲:山田案山子/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/効果:東京スクリーンサービス/協力:広瀬寛巳・小関裕次郎・植田浩行/スチール:小櫃亘弘/主題歌『女のいばら道』作詞・作曲:石川真平、唄:きみと歩実/出演:きみと歩実・綾波ゆめ・緒川凛・那波隆史・竹本泰志・なかみつせいじ・山本宗介《友情出演》・泉正太郎)。出演者中、山本宗介のカメオ特記は本篇クレジットのみ。
確か表札は事務所の“所”が抜けてた気がする、「小板橋音楽事務所」。担当マネージャー・板橋文夫(泉)を隣に伴つた、五年ぶりの新曲「女のいばら道」のリリースに漕ぎつけた演歌歌手の綺羅星アキ(きみと)に、自身もかつてはお座敷演歌の女王の異名を誇つた事務所社長の小板橋あやめ(緒川)は、一ヶ月以内に初回プレス分百枚を手売り出来なかつた場合の馘を宣告する。芸歴七年にして、通算売り上げが二曲で五百枚のアキにとつて過酷なミッションといふ以前に、最早ムッチムチも通り越し一種の貫禄さへ漂はせる、緒川凛の肉の圧力が堪らない。あやめが自分で淹れたコーヒーがクッソ不味いどうでもいい小ネタと、逃げるやうに出撃したアキと板橋が階段で軽く交錯する、アキの同期で事務所稼ぎ頭のアイドル・小嶋明日香(綾波)―とそのマネージャー・内山恵介(那波)―の顔見せ挿んでタイトル・イン。ところで内山恵介といふのは、山内惠介のアナグラム?後述する、さりげなくもなく見切れる亜希いずみがファンだつたりとかするのかな。
当てもなくアキと板橋が店頭プロモーションさせて貰はうと飛び込んだCD屋の店長(なかみつ)は、代償にアキのオッパイを要求。脊髄反射で踵を返さうとする板橋に対し、覚悟を決めたアキは一旦呑むも、店長に手篭めにされかゝるアキの悲鳴を聞いて別室に飛び込んだ板橋は、結局店長を殴り倒してしまふ。二人で火に油を注いで途方に暮れる、そこら辺の公園。背中に何某かの撮影をする際には許可を求める旨の看板が見切れてゐるのは、開き直つたギャグなのかジワジワ来る。
配役残り、最初の相手役には緒川凛が凄い迫力で飛び込んで来る竹本泰志は、小嶋明日香を愛人として公私に渉り面倒を見る音楽プロデューサー・テディ斉藤。オネエ言葉と、何でもかんでも引つ繰り返し識別に甚だ難い古典的なギョーカイ用語とを駆使する。山本宗介はラジオOPのディレクター・村木で、最終的に内山が小板橋音楽事務所を乗つ取つた形の「内山サウンドオフィス」、黙々とノートを叩いてゐるのは関根和美の愛妻・亜希いずみ。
亜希いずみが連続加勢を何気に三作に伸ばす、関根和美2016年第一作。アバンで十全にレールを敷いた、瀬戸際の演歌歌手が、要は一度も浮かばれてゐないゆゑ才気ですらない起死回生の大逆転を目指す如何にも娯楽映画的な奮戦記は、盤石かに一旦は思へたものの。圧倒的な存在感を爆裂させる緒川凛と、一見ケンケンするばかりの単に若いだけの新顔二番手かと思ひきや、吐き捨てる「思ひだしたくもない」の辺りから結構本格派のエモーションをドカンドカン放り込んで来る綾波ゆめ。最終的に物語的には等閑視されつつも、予想外の健闘を見せる綾波ゆめは殊に光り、適材適所の男優部にも穴はない。対して、手も足も出せなかつた無残な敗戦から棚牡丹なラストに至るまで、よくよく考へてみると明日香を赦した以外にはこれといつて何するでもない、本来ヒロインの筈のアキが終始どうにも弱い。スッカスカのオケと詞曲とも類型的な楽曲に、クレジット時に流れる白々しいPV。何れも十二分に致命傷たるあれやこれやも、きみと歩実の不安定な音程の前には全てケシ飛ぶ主題歌が、チャーミングとでもしかこの際いひやうもなく正しく止めを刺す。演歌ピンクと新奇な機軸を狙つたかに見せて、邪推するまでもなく簡便に撮影可能な方便に始終が支配された節が窺へる、良くなくも悪くも関根和美らしい“(´・ω・`)”な表情にさせられる一作。きみと歩実の髪に埋もれ、“終”のエンド・マークが殆ど見えない間抜けなラスト・ショットが、逆の意味で完璧に一篇を締め括る。
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