蕎麦屋と風通し

 厨房から表通りに出られるドアがあって、いつも開けっ放しなので中が丸見えになっているような蕎麦屋やラーメン屋が好きだ。
 開店前の蕎麦屋だと蒸籠(せいろ)の簾(す)を洗って天日干ししていたり、ざるそばやカツ丼に使うための海苔を焼く良い匂いが漂ってきたりするし、ラーメン屋だとおじさんがしゃがみ込んで野菜の皮むきや水洗いをしていたりする。
 営業が始まると、蕎麦屋からは長靴を履いて岡持を持った兄ちゃんが出前のために出たり入ったりし、ラーメン屋からは溜まった生ゴミを捨てに出たついでに煙草で一服している料理人がいたりする。
 道路に面した勝手口が開けっぴろげになっているのは、風通しの良さだけとってみても快適に見えるし、外に向かってオープンキッチンになっているわけで、仕事に精励している姿を見せれば宣伝効果も兼ねている。

|大もりを頼んだらこの量。店を出る際に「ありがとうございました」を10回くらい聞いた|2012年11月1日|

 そういう蕎麦屋が出版社から路地を挟んだ隣にあり、ビルの出口から勝手口が真正面に見えるので一度入ってみたいと思っていた。マンション一階に店舗はあるのだけれど、入ってみると使っている道具が年季入りで、古くからこの地で商売していた店が等価交換で存続し続けているのかもしれない。
 びっくりしたのは店内からも厨房が丸見えという、内に向かってもオープンキッチンのようになっていることで、客と店員が相互によく見える。奥さんがお茶と品書きを持ってやって来て、注文を聞いて帰って行き、客がお茶を飲んでひといき入れる頃合いを見計らって旦那さんが急須のお茶を持ってくるのだけれど、その間合いをはかる息のあった連携が楽しい。昔はそういうタイミングで新聞を持ってきてくれる店もあった。
 なんだか風通しのいい蕎麦屋だなと感心して気に入ってしまい、味覚も文脈が大切で蕎麦の味だけがすべてじゃないなと思う。

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