石の上の搭

 編集委員をしている戸田書店発行『季刊清水』取材で県道196号線を川沿いにすすんでいたら道路脇に巨石があった。両河内中学校の生徒たちが聞き書きした『両河内と我が家の昔話』を読むと、安政の大地震で山から巨石が露出し、その後の台風による鉄砲水で転がり落ちてきたという言い伝えがあり、それらのうちの一つらしい。

 言い伝えによれば、その災害により上流が壊滅的な被害を受け、多くの遺体が流れ着いた興津川下流域では、それ以来欠かさず川施餓鬼を行って犠牲者の霊を慰めているという。今でも台風が襲来するたびに各所で土砂崩れが発生し、道路が不通になっていることも多いので、防災用の放送鉄塔を最も安定した場所に建てようとしたら、江戸時代から鎮座するこの巨石の上になったのだろう。

 2010年発行『季刊清水』の特集「飯田に親しむ」で取材させていただいた、清水区高橋のヤマベルさんこと山梨ベルタイマー製作の機器が取り付けられており、かつては半鐘を叩き続けた警報が、装置の蓋を開けてボタンを押すとサイレンが鳴り続ける仕組みになっている。巨石脇には停電時に備えて、旧来の半鐘もちゃんと設置されている。

 それにしても、そのままで観光名所になりそうな巨石の上に、鋼鉄の防災放送塔が建っているこの景色は、見た瞬間現代美術作品のような驚きがある。それと同時に命にに関わる災害を引き起こす自然の脅威に対する、ちっぽけな人間の畏れが表現されたもののようにも見えて、山の冷気を感じつつ背筋がぞくぞくした。

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