【しし座流星群の夜】

【しし座流星群の夜】

(『電脳六義園通信所』アーカイブに加筆訂正した 2001 年 11 月 19 日の日記再掲)

テンペル=タットル彗星を母彗星とするしし座流星群、テンペル=タットル彗星が約 33 年で太陽の周りを 1 周するのに伴い、地球の軌道を横切る時撒き散らす塵が流星となるのだそうだ。イギリスのデヴィッド・アッシャー博士の予測によると 2001 年 11 月 19 日午前 3 時過ぎの日本が最も良い条件になるという。

NHK 第一放送によると午前三時十三分頃が本日第二のピークになるというので寒空の下に出てみた。なにしろ次回の出現まで生きていたとしたら…。日本人男性の平均寿命をオーバーするわけだから見納めかもしれないのだ。

マンションの屋上が鑑賞地点としては最適なのだけれど、物騒なご時世なのでちょっと気味が悪く、本郷通り上富士交差点に出て夜空を見上げてみる。時折流星らしきものが見える気がするけれど、通り過ぎる自動車のヘッドライトが電線を走ったりするのでそうと判別しがたい。しかも斜向かいにある交番のお巡りさんが身を乗り出してこちらを見ていて、職務質問などされたらたまらないので退散。意を決して屋上に昇ってみる。

鍵をあけて屋上に出ると座り込んでいる人影が一つある。驚かしてはいけないので
「こんばんは」
と声をかけてみる。すかさず、
「あの方向がしし座の領域です。四方八方に見事に流れていますよ」
と、若者の声がした。星見る人と直感したらしい。そりゃそうだ、他にこんな寒空で何をするというのだ。
「ありがとうございます」
とその方向を見つめると、ひとつふたつと流星が見える。赤いもの、青いもの、見事に尾をひいて横切って行くものもある。ああ、来て良かった。大世帯が暮らすコンクリートの巣箱にも二人くらいは物好きな人間がいるのだなぁ、世代の離れた男同士、おそらく再び共有することの無い得難い一瞬を共に過ごしているのだなぁなどと、全く関係ないことを思うと心がほんのり温かい。

しばらく見とれていたら、若者が、
「今夜は見事に木星が見えて横縞もはっきり見えます。ご覧になりませんか?」
と、声をかけてきた。天体望遠鏡を設置していたのだ。何をとち狂ったか咄嗟に持って来ていた役に立たないデジカメをポケットに慌てて隠して、おじさんは接眼レンズをのぞき込む。
「ありがとうございます」
「右に一列に星が連なっているでしょう。あれが木星の四大衛星です」
「ははぁ、右に等間隔に並んでいる奴ですね」

太陽からの距離は地球の 5.2026 倍、公転周期 11.82 年、自転周期 0.414 日、赤道半径 7 万 1398km 、質量は地球の 317.832 倍、極大光度はマイナス 2.8 等、命名された衛星は 16 個、うちガリレイが発見した特に明るい 4 個がこれですね、なぁんて即座に答えるとカッコイイおじさんなのだが、天文には疎いし、寒いし、
「き、綺麗ですねぇ」
「はあ」
なんていう会話を交わして、間がもたないのでお礼を言って屋上を去る。

流星も見たし、木星の横縞も見たし、ガリレイ衛星も見たし、若者とも話したし、やはり「早起きは天文の得だ」。おあとがよろしいようで。

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