【梵妻】

【梵妻】

郷里静岡県清水本町の妙生寺、その『妙生寺略史』をいただいたので読んでいたら、浄土真宗ではご住職の奥さんを坊守(ぼうもり)と言うことを知った。

他宗派では大黒(だいこく)と呼ぶこともあるというのだけれど、夢野久作を読んでいたら別の字の「だいこく」が出てきた。

それをやがて起きて来た梵妻や寺男が介抱をしてやると、やっと正気づいたので、手足の泥を洗わせて方丈へ連れ込んだのであったが、熱い湯を飲ませて落ちつかせながら、詳しく事情を聞き取るうちに、和尚はニヤリニヤリと笑い出して、何度も何度も首肯いた。(夢野久作『いなか、の、じけん』より「兄貴の骨」)

作中の和尚は真言宗の僧であり、梵妻には「だいこく」とルビがふられている。妻帯が許されている宗派では、寺の女房を大黒といい、それを大黒ではなく梵妻(だいこく)と書いたわけだ。スーパー大辞林で「梵妻」をひくと「僧の妻。大黒(だいこく)。」と素っ気なく書いてある。

2022/12/28 中里
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素っ気ないので日本百科全書の稲垣史生による解説を引くと、寺の飯炊き女を厨房に祀られた神に因んで「だいこく」と呼び、妻帯が認められている宗派では妻を大黒、認められていない宗派では梵妻と書き、梵妻は飯炊き女と偽って隠しもった妻をさしたという。

なぜ隠し妻に宇宙創造の神ブラフマンである「梵」が冠せられているのか、その正しい理由は知らないけれど、「兄貴の骨」というタイトルも含めて、夢野久作が書いたものには南中国の老荘思想からインドの正統バラモン思想へと通じていく、意味づけから隠遁するようで不可説なおかしみがある。

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