世話の焼ける客

2014年4月5日(土)
世話の焼ける客

00
最寄り駅ひとつとなりの駅前に、以前から気になっている大衆食堂があり、昼時に通りかかったので暖簾をくぐってみたら、七十近い男性と女性ふたりの三人がカウンターの中で料理を作ったり客の相手をしたりしていた。昼の第一陣が立ち去るところで、五人連れの若者が勘定をしていた。

01
勘定を済ませた者から外に出て、残った二人のうち一人が突然素っ頓狂な声を出し
「財布忘れてきましたっ!」
と言う。言葉の響きで発達障害のある若者なのだなと思う。おじさんが
「ああ、いいよいいよ、帰るときに持って来てくれれば」
と言ったら、連れの若者が千円札をもう一枚出して立て替えている。立て替えてもらうということがわかりにくいらしく、おばちゃんが
「こっちの人から千円もらって三百円おつりを渡したから、あなたはあとでこの人に七百円払ってね」
と何度も言い方を変えて説明し、やっと納得して若者たちは出ていった。

02
他の客たちが何事かと驚いているかもしれないと気にしたらしく、おばちゃんが
「可愛いからいいんだけどね、こみ入った話になっちゃうと世話が焼けてね」
と笑いながら言う。五人が食べ終えた食器の上にはそれぞれにバナナの皮が乗っており、食後のサービスとして一本ずつバナナをつけたらしい。心優しいおじちゃんおばちゃん達なのだ。

03
おばちゃんと目が合ったので
「カレーライスお願いします」
と言ってみた。しばらくしたらカレーを温めていた別のおばちゃんが
「カレーのお客さん、福神漬けつけますか?」
と聞くので
「はい、つけてください」
と答えた。子どもの頃はカレーに福神漬けがつきものだったけれど、最近は残す人が多いのでいちいち確かめるのかもしれない。

04
カレーが来たら、やはり家庭風の甘口で、福神漬けをつけてもらって良かったと思う。福神漬けで塩分を補いながら食べ終え、お釣りのないように支払おうとして 100 円玉 5 枚取り出しておばちゃんの手にのせたら 1 枚が 1 円玉だった。百円玉が 1 枚足りず、仕方ないので千円札を取り出して渡したら、小銭を返してくれながらおばちゃんが自分の頬を指さし、
「ここにご飯がついてるよ」
と言う。慌てて右手の甲で左の頬を拭ったら黄色いご飯粒がついてきたのでぺろっと食べた。そうしたらもう一人のおばちゃんが
「はい、これを使って」
とポケットティッシュを差し出してくれたので、一枚いただいて頬と手の甲を拭った。

05
すっかり世話の焼ける客になってしまったなと思いながら、勘定を終えティッシュを使い終えたら、おじちゃんが
「はい」
と言いながら目の前にバナナを一本置いてくれた。

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