【今朝のポケット】

2020年9月10日

【今朝のポケット】

読み終えてしまった本を引っ張り出し、適当にひらいた数ページを、物語を構成する部品の一つひとつであることから離れて、文字を物自体として読むのが好きだ。壊れた機械を分解し、きれいな部品を集め、眺めて遊ぶのに似ている。

きれいな言葉の小石を見つけ、拾い集めてはポケットに入れ、本の中の散歩から帰宅したあと、紙の上に広げて眺める。とくに漱石が踏み固めた散歩道では、すぐにズボンの両脇がいっぱいになる。未明に目が覚めて散歩した今朝のポケットの中身。

目的物がないから動くのです。あれば落ち付けるだろうと思って動きたくなるのです(『こゝろ』) 
私は想像で知っていた。しかし事実としては知らなかった(『こゝろ』)
そうむずかしく考えれば、誰だって確かなものはないでしょう(『こゝろ』)
私は今より一層淋しい未来の私を我慢する代りに、淋しい今の私を我慢したいのです。自由と独立と己れとに充ちた現代に生れた我々は、その犠牲としてみんなこの淋しみを味わわなくてはならないでしょう(『こゝろ』)
私は嫌われてるとは思いません。嫌われる訳がないんですもの。しかし先生は世間が嫌いなんでしょう。世間というより近頃では人間が嫌いになっているんでしょう。だからその人間の一人として、私も好かれるはずがないじゃありませんか(『こゝろ』)

夜が明けて窓を開けたら空に箒ではいたように絹雲がかかっていた。

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