▼産業余話

 

戸田書店発行『季刊清水』に「戦後復興を支えた清水の瓦」と題して今は跡形もない祖父の瓦工場のことを書いた。

 職場の端には大きなモートル(モーターをそう呼んだ)があり、そのモートルがベルトで天井にある長いシャフトを回し、シャフトにベルトを付け替えることでさまざまな瓦製造機械を動かしていた。子ども心に、なんて良くできた機械だろうと感心し、こんな機械まで祖父が作ったのかと感心していたが、かつて清水にはそういう瓦製造用重機を作る会社もあったという。
(中略)
 養生を終えた粘土は瓦の原型になる弧を描いた板として押し出す機械に入れられ、押しだされた板は玩具のような瓦大の木製トロッコに乗り、針金のような器具で一枚一枚切られてレールを滑り降りてくる。粘土を供給する係、一枚一枚切断する係、トロッコから瓦の原型を剥がして運ぶ係と、女たちも一緒になって仕事を手分けし、空になったトロッコを押し出し口までもどす係を子どもたちが手伝った。トロッコに粘土が張り付かないように土の粉を吹きかけたり、その粉を作るための作業も必要なのでとても人手が足りないのだけれど、そういう作業の機械仕掛けまでちゃんとついていて工場の隅で動いていた。家族も働き者だが、たった一台のモートルもまた働き者だった。(戸田書店『季刊清水』42号・特集「戦争直後の清水を生きる」より)



織物参考館「紫(ゆかり)」の鋸型屋根。



6月5日、群馬県桐生市にある森秀織物株式会社の織物参考館「紫(ゆかり)」を見学した。
桐生市内には鋸型屋根の紡績工場がたくさん保存されている。鋸型屋根は工場内で機械がたてる騒音を低減させ、光量が極端に変わらない北側から採光することで工場内の明るさを一定に保つ工夫だという。



工場天井のシャフト。



瓦工場と織物工場に共通するものがないかと天井を見上げたら、祖父の工場にあったのと同じモートルで駆動する万能シャフトがあった。シャフトに取り付けられた輪と機械をベルトでつなぐことで、必要に応じてさまざまな機械を動かしていた。



シャフトを回転させてさまざまな機械を動かすモートル。



中学時代の恩師から、大量生産による廉売で清水の瓦産業を駆逐した愛知県三河の瓦製造工場を取材したビデオをいただいたが、家族総出で何日もかけた製造工程を、大型機械が全自動で短時間に済ませてしまう様子に驚嘆した。



国の登録有形文化財に指定されている工場の建物群。



最後の瓦製造工場が消えて久しい清水の街を歩いていたら、港の倉庫街に東南アジアから輸入された瓦が山積みされていたが、そういう利潤なき価格競争の果てにあるものは、人々の叡智に付け加えられる余話に過ぎない気がする。

 
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