予想外


D850 + SIGMA 35mm F1.4 DG HSM

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染め直した990を履き、たまたま立ち寄った銀座のデパートで、有名な靴磨きの職人さんが出店していた。
これはチャンスだと思い、早速磨いていただくことにした。
(下の写真は磨いた直後に外に出て自然光で撮ったもの)
その結果、意外なことがわかった。

まず染め直した990をじっと見て、はてこれは??・・という事になった。
磨くに当たり、色落ちなどしたら困るので、先にバーガンディを染め直したものであることを告げた。
「ウィスキーコードバンの使い込んだものかと思いました」
という感想であった。
どこで染め直しが出来るのか聞かれ、千駄ヶ谷のお店を教えた。

仕上げの希望を聞かれたので、このブラウンの色味をを変えずに光沢を加えて欲しいとお願いした。
何色のクリームを使うか考えた結果、明るめのブラウンのクリーム2種類で調整することになったようだ。
No.8のコードバンとは違う選択のはずである。

磨きの作業をじっと観察していたが、染め直した染料が落ちるということはなさそうだ。
クリーナーで拭いた時にも、指に巻いた布に色が付いた様子はなかった。
(前の日に自宅でコロニル1909の無色で磨いた時には、ネルに黄色の染料が少し付いた)



磨きの作業の最中、非常に興味深い話になった。
このコードバンは、まれに見るほど品質が高いという。
「コードバンの靴は毎日のように磨きますが、これほどのものはついぞ見たことが無いですね」
と言われた。

こちらは手持ちの中から出来が悪いものを選んで染め直したつもりだったので、その言葉に戸惑ってしまった。
具体的にどのようなところがいいのか尋ねてみた。
「まず表面が滑らかです。最近のオールデンのコードバンは必ずでこぼこがあるのに」
そう言いながら、手を靴の裏側に回し踵の方も磨いてみる。
「ああ、全体がツルツルですね。本当に素晴らしい革ですよ」

確かにオールデンのコードバンはいくつか持っているが、どれも表面に凸凹がある。
さらに詳しく聞くと、いい革というのは「重い」のだそうだ。
つまり革の表面に抵抗感があり、布を動かすと重みを感じる。
このコードバンには、まさにその感触があるという。

磨けば磨くほど良さを実感するようで
「いやあ、見事な革です。羨ましいくらいですよ」
と最上級の誉め言葉。
大量のコードバンに接してきたベテランの言葉だから真実味がある。

もう長く履いているのですか、と聞かれた。
「ええと・・去年買ったばかりです・・・」
「・・・」

てっきり革の品質がいいとされる昔のコードバンだと思われたようだ。
一瞬えっという顔になった。
僕の方も、最近作られたコードバンでも質のいいものもあるのか・・と考え込んでしまった。

「もしかしたら、染め直す時に一度染料を落とすので、それで一皮むけて良くなったということはないですかね」
「いや、それは関係ないでしょう。これは革そのものが本当にいいですよ」
やはり、たまたまいい革の靴に巡り合った、ということだろうか。

念のためもう片方の靴の表面も確かめるように磨く。
コードバンは面積が小さいので、製造できる足数には限りがあり、左右で質感が異なる場合もある。
「ああ、間違いなく両方ともいい革ですよ。冗談でなく本当にいいものです」
と感心していた。

「このコードバンは「当たり」ですよ。大切に履いてください」
そう言われてお店を後にした。
予想だにしない結果に戸惑いながらも、ちょっと嬉しい気分になりながら帰宅した。
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