酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「蜂起」~声高な反権力の潔さ

2008-01-28 05:35:04 | 読書
 週末3大決戦の結果が出た。大阪府知事選で橋下徹氏、サウスカロライナ州の民主党予備選でオバマ氏が、それぞれ圧勝劇を演じる。千秋楽のモンゴル対決を制したのは白鵬だったが、朝青龍のヒールぶりが相撲人気復活を支えているのは皮肉な話だ。

 スーパーボウル(2月3日)、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(10日)と、俺にとって「祭り」が2週続く。Youtubeで予習してみると、レイジのメンバーは今ツアー、革命歌「インターナショナル」とともにステージに登場している。幕張メッセでは日本語版を流してもらいたい。♪起て飢えたる者 今ぞ日は近し 醒めよ我が同胞(はらから) 暁は来ぬ……。2万人以上の聴衆は、彼らのメッセージを受け止められるだろうか。

 レイジを文学に例えれば森巣博氏の小説になる。日本人は相手が手ごわいとムニャムニャ、ナヨナヨ沈黙してしまうが、森巣氏は違う。声高に反権力を唱える潔さに感嘆するしかない。

 「非国民」については別稿(05年12月21日)に記したが、今回は「蜂起」(幻冬舎文庫)を取り上げる。森巣氏の作品は少数派がカタルシスに浸る<危険小説>で、俺の心情にピッタリとフィットする。本作は「週刊金曜日」連載中、多くの読者から苦情が寄せられたという。左翼、リベラルに清濁併せ呑めない人が多いのは残念でならない。

 「蜂起」の主な登場人物は以下の4人だ。
□盛山…身に覚えのない科で懲戒免職処分を食らった55歳の警視。貸金業を始めるが、妻子に財産ごと逃げられる。
□まゆ…セックス依存症の30歳。広告代理店をリストラされ、心に潜む凶暴さを抑えられなくなる。
□忠臣…右翼団体を主宰する51歳。シノギが苦しくなり、焦って虎の尾を踏む。競輪で大逆転を狙うが……。
□裕子…自傷癖(リストカット)のある16歳。大人の欲望に心身を汚され、破壊衝動に目覚める。

 本作は東京を舞台にしたポリティカルSFだ。上記4人だけでなく、高齢者、若者はそれぞれの方法で狼煙を上げ、自殺者は同時刻に電車に飛び込む。主戦場の皇居周辺に、全国からホームレスが続々と集結した。<一点突破・全面展開>ならぬ<全面破壊・展開不要>の様相に、権力中枢は民族浄化(ジェノサイド)を計画する。お上に従わぬ<非国民>は日本人ではないから殺すべしという<国家の本性>が剥き出しになる。

 崖っ縁の日本経済、「絶対権力」警察の病巣、少女をターゲットにした性市場の闇、<霞ケ関―永田町>の腐敗の構図、飼い慣らされたメディアの体たらく……。<オーストラリアの博奕打ち>である森巣氏は、数字と情報を縁(よすが)に修羅場をくぐってきた。リアルな裏付けに基づいて社会全般を抉っているが、とりわけ心が躍ったのは忠臣が車券を検討する場面だ。人を滅ぼすギャンブルの本質が、経験に基づき描き出されている。

 自らの知識を<チュウサン(中三)階級>と謙遜する森巣氏だが、深く広い教養には驚くしかない。森巣氏は「ナショナリズムの克服」(姜尚中=政治学者)、「ご臨終メディア」(森達也=映像作家)、「戦争の克服」(鵜飼哲=哲学者、阿部浩己=法学者)と、日本を代表する知性と対談している。鋭い直感、豊富な知識、独自の分析で相手をうならせる場面もしばしばだ。

 日本社会の崩壊が進行し、すべての境界(壁)が揺らいだ時、森巣氏の作品は<自由な飢えたる者>にとってバイブルになるだろう。


コメント
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