酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

絶望の彼方~イアン・カーティスの死から25年

2005-05-18 06:46:33 | 音楽

 訃報ほど、人を厳粛な気分にするものはない。年齢が近ければ尚更だ。俺より年上なら三島由紀夫、高橋和巳、ジョン・レノン、年下なら尾崎豊、カート・コバーン……。同世代の者は、彼らの死と自らの来し方を重ね、生きる意味を問い直したことだろう。

 俺にも衝撃的な死があった。25年前のこの日(18日)、ジョイ・ディヴィジョン(以下JD)のボーカリスト、イアン・カーティスが自ら命を絶った。俺と同じ1956年生まれで、享年23歳である。JDは当時、日本では無名であり、イアンの死を知るまでタイムラグがあったと記憶している。「24アワーズ・パーティ・ピープル」の項(3月11日)と一部重複するが、JDとイアンについて、以下に記してみたい。
 
 内向きの音を指向したJDは、77年にデビューした。時節柄、パンクに分類されたのは致し方なかったといえる。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、デヴィッド・ボウイ、クラフトワークから影響を受けたという。活動期間は3年と短く、2枚のオリジナルアルバムは、マーティン・ハネットがプロデュースしている。

 1stの“Unknown Pleasures”は、ミニマムなのに不思議な広がりを覚えるアルバムだ。“Disorder”のドラムの音を生み出すのにいかに手間を掛けたかは、「24アワーズ――」でも描かれている。モノローグのようなイアンのボ-カルと乾いたドラムが、JDの生命線だったのか。“Shadowplay”のプロモを見た時、イアンの奇妙な体の揺れに「尼僧ヨアンナ」を思い出した。そういや、モリッシーのアクションもかなり怪しい(妖しい?)。マンチェスターは悪魔憑きの街なのだろうか。

 骨格がくっきり浮き出た1stに、憂愁と絶望の衣を被せたのが2ndの“Closer”だ。この作品ほど内向きに研ぎ澄まされ、美しく沈んだ音は、あらゆるジャンルを通して聴いたことがない。 悲劇的な結末を知った上とはいえ、“Isolation”から“Passover”、“Heart and soul”からラストの“Decades”へと、イアンの影が無明に溶けていくように感じてしまう。まさに極北に位置するアルバムだ。

 イアンが最後に録音した曲が“Love will tear us apart”だ。邦訳すれば、「愛は僕たちを引き裂く」という哀切なタイトルになる。俺はこの曲を神棚に祀っていたが、音楽通の友人の分析に拍子抜けしたことがある。“Love will――”はストーンズの「アンジー」、クラプトンの「いとしのレイラ」に並ぶ不倫ソングの傑作だという。イアンが三角関係に悩んでいたのは事実らしいが……。

 ジョイ・ディヴィジョンとはナチス将校のための性的慰安施設で、デビュー前に名乗っていたワルシャワは、ナチスに蹂躙された街だ。イアンの死後、残った3人+1で結成したのがニュー・オーダー(以下NO)だが、そのバンド名もまた、ナチス絡みである。計算ずくとはいえ、誤解を生んだこともあった。そのNOが今夏、フジロックにやって来る。大トリという厚遇だ。楽しみにしている人には申し訳ないが、NOはかなり下手なバンドだった。果たして進歩したのだろうか。

 NOはイアンの闇を濾し取るや、デジタルロックという新たな方向性を模索する別バンドに生まれ変わった。JDの後継者と目されたのは、サマソニにラインアップされているエコー&バニーメンの方だった。ボーカルのイアン・マカロックは「イアン・カーティスの死を補うのは、同じイアンの彼しかいない」とまで評価され、期待に十分応えていたが、80年代後半に失速してしまう。見る者を狂気に誘うライブパフォーマンスはUK勢で白眉だったが、それもピーク時の話。とっくに磁力をなくしているに違いない。

 NOとバニーズ以外に、JDの系図に連なるアーティストを挙げてみる。同志的存在がキュアーやスージー&バンシーズ、継承者がバウハウス、シスターズ・オブ・マーシー、マイ・ブラッディ・バレンタインといった辺り。ナイン・インチ・ネイルズもヴェルヴェッツやボウイの土壌から生まれたバンドで、根っ子でしっかり繋がっている。JDの優秀な弟といった感じだろうか。

 開催中のカンヌ映画祭から、ニュースが飛び込んできた。イアン・カーティスの生涯を追った映画が制作されるという。自殺の真相を巡る議論にも、ピリオドが打たれるかもしれない。
 
 俺はあの日から25年も生きている。心も体もクチクラ化しているが、JDを聴くと隅々がショートして、思わずイアンに声を掛けたくなる。「そんなに背負うなよ。少しぐらい引き受けてやるからさ」と。
コメント (2)
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