酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「ディーパンの闘い」~スリランカ風味の甘辛ピカレスク

2016-02-25 00:26:44 | 映画、ドラマ
 日本の現実さえ把握していないのだから。海外の動きについて語るのは僭越というべきか。それでも、アメリカ大統領選の行方は興味深い。丸山和也参院議員は日本がアメリカ51番目の州になることを仮定してあれこれ語り、顰蹙を買ったが、的を射た部分もある。<右傾化>、<集団化>以上に、安倍首相は<アメリカ化>と推進しているように思えるからだ。

 かねてTPPに否定的だったヒラリー・クリントンは、通貨安を誘導する日中両国に対抗措置を取ると発言した。ドナルド・トランプも同様の方針で、日米同盟なんて一笑に付すかもしれない。バーニー・サンダースが大統領になったら、辺野古移設強行は差し戻されるだろう。「参院選よりアメリカ大統領選の結果の方が、日本の変化に繋がる」と語った三宅洋平に説得力を感じた。

 <格差是正>を掲げるサンダースだが、報道によれば「貧困率の高い黒人やヒスパニックはクリントンの票田」という。サンダースのキャンペーンに協力しているヴァンパイア・ウィークエンドやフォスター・ザ・ピープルは、いかにも都会育ちのお坊ちゃんという雰囲気だ。<社会の底で貧困に喘いでいる実感派>と<民主主義維持のために富の公平な分配が必要と考える知性派>……。後者の支持を集めるサンダースだが、前者への食い込みは足らないのかもしれない。

 ヨーロッパでここ数年、格差とともに大きな問題になっているのが難民だ。ベルリン映画祭で先日、金熊賞を獲得したのはアフリカや中東からの難民たちを追ったドキュメンタリー「火の海」(ジャン・フランコロージ監督)だった。ちなみに同監督の前作「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」(ベネチア映画祭金獅子賞)は上映後、想田和弘監督の解説を聞かなければ、既に記憶から消えていただろう。

 「火の海」同様、難民を扱った作品を日比谷シャンテで見た。「ディーパンの闘い」(15年、ジャック・オディアール監督)で、こちらはカンヌ映画祭パルムドールに輝いている。主人公ディーパンはスリランカ出身で、タミル・イーラム解放のために闘い、政府軍に妻子を殺される。ディーパンは難民キャンプで、30歳前後の女性ヤリニ、少女イラヤルと便宜上の家族になって出国した。

 大義に身を捧げてきたディーパンは、血と暴力に満ちた修羅場を生き延びてきた。行き着いたパリ郊外のアパートで管理人の職を得たディーパンは、偽装から真の家族になるための闘いを始める。憎悪から愛に軸足を移したが、血が繋がっていようがいまいが、絆を紡ぐことには困難が付き纏う。ヤリニは常に揺れているし、イラヤルも学校に馴染めずにいた。

 年金生活者、高齢者、移民、低所得者が暮らすアパートでも、戦場に似たルールが支配していた。ある棟の最上階を占めるのは麻薬密売組織で、家政婦として派遣されたヤリニは、意外なほど優しい幹部ブラヒムと、料理を通じて打ち解けていく。一方で、ブラヒムたちと敵対するグループと抗争に毅然とした態度を取ったディーパンは、微妙な状況に追い込まれる。

 フィルムノワールの色合いが濃い本作はダウナーでサスペンスタッチだが、俺は待ち受けるカタルシスを確信していた。12年のベストワンに挙げたオディアールの前々作「預言者」も移民(イスラム系)が主人公だったが、長い闇から一転、ラストで光に包まれる。重いテーマを後景に据えながら予定調和のピカレスクを創り上げる手腕に感嘆するしかない。オディアールは〝辛口だけどマイルドな隠し味を合わせ持つカレー〟を作る一流シェフといえるだろう。

 アジア系は内向的で表情に乏しいといわれるが、本作ではディーパンの秘めた激情、ヤリニの心情の変化か巧みに表現していた。ちなみに、ディーパンを演じたアントニーターサン・ジェスターサンは実際にスリランカ出身で、亡命後は小説や評論で評価される文化人でもある。いかなる〝具材〟を見つけてくるのか、オディアールの次作が楽しみだ。
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