酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「マネーボール」が描く男の矜持と意地

2011-12-16 03:57:06 | 映画、ドラマ
 今年の世界のキーワードは<叛乱>と<反資本主義>だが、スポーツ界に変化の波は押し寄せていない。財政危機に瀕しているスペインとイタリアだが、トップチームは有望選手獲得に莫大な金額を用意している。MLBも同様だ。地盤(経済)に亀裂が生じたら、建物(スポーツ)も倒壊する。<99%>に属するファンはいずれ高額選手を見放すかもしれない。金を巡る正気と狂気の境界線を定める時機が来たのではないか。

 前置きと重なる「マネーボール」(11年、ベネット・ミラー監督)を見た。実話の映画化で、ブラッド・ピットはオークランド・アスレチックスの敏腕GM、ビリー・ビーンを演じている。野球のみならずプロスポーツの在り方を問いかける秀作だった。

 ビリーは18歳で岐路に立つ。奨学金で名門スタンフォード大に進学するか、メッツに入団するか……。後者を選んだビリーだが、結果を出せなかった。01年オフ~02年シーズンにビリーの選手時代の回想がカットバックし、人生における選択の意味を浮き彫りにする。

 アスレチックスは01年シーズン終了後、ジアンビ、デーモン、イズリングハウゼンの主力3人を失った。資金力に劣るアスレチックスは日本でいえば広島カープで、有力選手を留め置くのは難しい。商談でインデアンスを訪問したビリーは、選手ではなくスタッフを引き抜いた。エール大で経済を学んだピーターである。

 ピーターの目に映る選手像は球界の常識を覆すものだった。「デーモン放出は正解」と語るピーターに、「君なら俺をどんな条件でスカウトした?」とビリーは尋ねる。「9巡目で契約金なし」と当時のメッツと真逆の評価を示したピーターは、GM補佐としてチーム改造に協力する。

 監督、コーチにスカウトはビリーとピーターに拒否反応を示すが、本作では<マネーボール>の別の顔が描かれている。低迷するチームに奇跡を起こしたのは<数式>ではない。ビリーは和を乱す選手を放出して気合を投入し、ベテラン、若手問わず巧みに動機付けする。20連勝を生んだのはビリーの<人間力>なのだ。

 NFLのヘッドコーチやコーディネーターには、ウォール街の<金融工学者>タイプのワーカホリックが多い。MLBに置き換えればビリーやピーターだが、勝敗の帰趨を決するのは空気である。モメンタムを引き寄せ、ケミストリーを起こすのが名将の条件で、最初に顔が浮かぶのはジョゼ・モウリーニョ(レアル・マドリード監督)だ。

 幾分オカルト的だが、当時のオークランドは勝利の女神に嫌われていた。ビリーはワールドシリーズに手が届かなかったし、悪童軍団レイダースも、疑惑の判定や非運続きでスーパーボウル出場を逃していた。01年秋、ジアンビに翻意を促したレイダースの闘将グルーデンは翌年早々、不可解な経緯でチームを離れる。02~03シーズン、前ヘッドコーチの遺産でスーパーボウル進出を果たしたレイダースだが、当のグルーデン率いるバッカニアーズに21対48と完敗した。

 ビリーはレッドソックスが提示した破格の条件を蹴り、アスレチックスにとどまる。2度目の選択ミスといえるかもしれないが、離れて暮らす娘がディスクに吹き込んだ曲の歌詞のように、他人のフリをして人生という迷路を歩んでも意味はない。ビリーは金に換えられない矜持と意地を守ったのだ。

 最後に、日本で今年封切られた'11映画ベスト5を。1位「未来を生きる君たちへ」、2位「アジョシ」、3位「ブラック・スワン」、4位「大鹿村騒動記」で、5位には園子温監督の「冷たい熱帯魚」と「恋の罪」を合わせて推す。厳密にいうと共に昨年暮れ公開だが、「キック・アス」と「海炭市叙景」も挙げておきたい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 師走のスポーツ雑感~なでし... | トップ | 「王国」と「キリング・ムー... »

コメントを投稿

映画、ドラマ」カテゴリの最新記事