酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「バーナデット ママは行方不明」~南極に咲く奇跡の華

2023-10-15 21:41:45 | 映画、ドラマ
 きょう67歳になった。俺のような無能な人間が東京砂漠で生き長らえてこられたのは、ひたすら運が良かったからである。周りに支えられてきたが、とりわけ家族の力が大きかった。特養施設で暮らす母、亡き父と妹にはいくら感謝しても感謝し過ぎることはない。絆の意味を考える今日この頃だ。

 俺が親近感を覚える街といえば、日本では函館で、欧州では歴史とサッカーでバルセロナ、ロックでマンチェスターだ。アメリカなら〝文化の拠点〟ニューヨークだが、「コールドケース」の再放送をスカパーで見ているうち、フィラデルフィアに馴染んでしまった。かつてはECWの拠点で、〝ブラザーフッド〟の街だ。NFLならイーグルス、MLBならフィリーズに肩入れしているが、両チームとも好調で気分がいい。

 さらに挙げるならシアトルだ。ニルヴァーナ、パール・ジャムらが世界を震撼させたグランジ発祥の地である。そのシアトルを舞台にした「バーナデット ママは行方不明」(2019年、リチャード・リンクレイター監督)を新宿ピカデリーで見た。アメリカ公開後、4年を経ているのは、日本ではヒットを見込めないと配給会社が考えたからかもしれない。

 前稿で紹介した「BAD LANDS~バッドランズ」は4人の擬制家族が織り成す宿命に彩られた物語だったが、「バーナデット――」は対照的に家族の絆を描いたコメディーだ。主人公は主婦のバーナデット(ケイト・ブランシェット)で、IT長者の夫エルジー(ビリー・クラダップ)、娘ビー(エマ・ネルソン)と暮らしている。

 ケイトの出演作で印象に残るのは「ブルージャスミン」だ。堕ちていくジャスミンの心情を清冽かつ繊細に表現したケイトは、同作でアカデミー賞主演女優賞など数々の栄誉に浴している。監督のウディ・アレンは<言葉で説明できる領域を超越した天才>と絶賛していた。ケイト演じるバーナデットはママ友や隣人とうまくやっていけない。いわゆる〝コミュ障〟で、ワーカホリックのエルジーも、バーナデットの振る舞いに異常さを覚え、治療が必要と考えカウンセラーを妻に紹介する。

 この展開に「ブルージャスミン」が重なり、悲劇的な結末が待ち受けているのではと心配になった。同作のラストで、ジャスミンの微笑みに、崩壊と狂気を予感したからだ。「バーナデット――」は色調が異なるが、家庭における女性の位置を見る者に問いかける。キャリアウーマンは本作にどのような感想を抱くだろうか。

 バーナデットはグランジのように、業界に革命をもたらした天才建築家だったことが、少しずつ明かされていく。子供たちのパーティーで、「あの子の父親はパール・ジャムのメンバーなのよ」とママ友が話す場面が印象的だった。追い詰められたバーナデットは隣人オードリー(クリステン・ウィグ)に救いを求める。絶交状態にあった2人が和解し、しみじみ語り合うシーンに心が和んだ。

 まあ、深く考えて語るタイプの映画ではない。バーナデットは再会した建築家ジェネリック(ローレンス・フィッシュ)に悩みを打ち明ける。「周りとうまくやっていけない」と……。ジェネリックは「理由は簡単。君は本来の姿を見失っている。創造の道に戻ったたら解決する」と答えた。それが本作の肝台詞で、バーナデットは思い切った行動に出る。

 バーナデットとは19世紀、ルルドの泉で聖母マリアが出現するという奇跡を体験した少女の名前だ。本作でもバーナデットは壁をスルスルすり抜け、家族の応援を受け、南極点で奇跡の華を咲かせる。ハートウオーミングなハッピーエンドだった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする