酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「BAD LANDS」~抗い喘いで疾走するクライムサスペンス

2023-10-11 22:31:15 | 映画、ドラマ
 藤井聡太竜王・名人が永瀬拓矢王座を破り、八冠制覇を成し遂げた。凄まじい逆転劇で、自らの失着を責める永瀬の動作が印象的だった。将棋はイーブンの条件での闘いだが、世界は今、イスラエルとハマスの戦争に注目している。米メディアはイスラエルに肩入れしている。だが、ツツ主教が<現在のアパルトヘイト>と断罪したように、イスラエルが国際人道法に違反して封鎖してきたガザは「天井のない監獄」と呼ばれている。

 むろん、ハマスの先制攻撃を肯定するわけにはいかない。だが、イスラエルが占領開始以来、積み重ねてきた戦争犯罪は許されるものではない。そもそもイスラエルとパレスチナの軍事力は100対1以上だ。俺は数々の暴力に抗ってきたパレスチナの側に立ってブログに記してきた。両国が交渉による解決を選ぶことを願っている。

 <全てに抗い、全てを掠め取れ>……。こんなキャッチコピーで謳われた映画をTOHOシネマ新宿で見た。「BAD LANDS~バッドランズ」(2023年、原田眞人監督)である。原作は「勁草」(黒川博行著)で、主人公は男だったが、映画では安藤サクラが演じるネリに変わっていた。特殊詐欺グループで受け子を束ねる〝三塁コーチ〟のネリと、血の繋がらない弟ジョー(山田涼介)との近親相姦的な妖しさがケミストリーを生み、滑車の役割は関西弁だ。冒頭とラストに登場する〝月曜に走る女〟が伏線になり、1週間の濃密なクライムサスペンスがスクリーンを疾走する。

 舞台は釜ケ崎で、<格差と貧困>が本作の背景にある。ネリはあいりん地区を闊歩していた。ボスの高城(生瀬勝久)はネリの実父で、特殊詐欺だけでなく、生活保護者を搾取する貧困ビジネスにも手を染めている。ネリのドヤでもある簡易宿泊所で暮らす曼荼羅(宇崎竜童)はかつて高城の盟友で、幼いネリを可愛がってくれた。

 ネリとジョーの姉弟、高城、そして姉弟に父性をもって接する曼荼羅……。ギリシャ神話の悲劇に現れるような、宿命に彩られた4人の擬制家族がストーリーの軸である。劇中に流れるバッハはドヤ街とミスマッチに感じるが、原田監督は「サラバンド」を家庭劇に用いたベルイマンにインスパイアされたという。

 本作は上記の4人以外に、個性的なキャストが登場する。特殊詐欺グループに迫る日野班長(江口のりこ)と佐竹刑事(吉原光夫)、ネリを支配していたIT企業社長の胡屋(淵上泰史)、賭場の金庫番である林田(サリngROCK)、受け子に身を落とした教授(大場泰正)たちだ。狂気と暴力がスクリーンから零れてくる作品で、抗い喘ぐジョーを表現した山田の熱演が光っていた。

 崖っ縁に追い込まれたネリを救ったのは仮想通貨にも通じる林田と〝月曜に走る女〟だった。家族という桎梏から解き放たれたネリは、これからどのように生きていくのだろう。自由とは、人を縛る金とどう折り合いをつけるのか。近い将来、何事もなかったように釜ケ崎に戻り、くたびれたおっさんたちに声を掛けているような気がする。
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