酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「税金を払わない巨大企業」~モンスター退治のための必読書

2015-01-24 14:48:11 | 読書
 湯川、後藤両氏がイスラム国の人質になっていることを知りつつ、安倍首相は有志連合支援(2億㌦)を打ち出した。<日本は戦争をしない国>を前提に活動してきた後藤氏、<日本を戦争する国>に導こうとする安倍首相……。両者の対照的な立ち位置もあり、様々な切り口で語られているが、仕事先の夕刊紙(G紙)は後藤氏の〝自己責任〟に言及し、<後藤氏は当地の事情を把握した上でシリア入りしたはずで、身代金支払いはテロへの屈服>と主張していた。

 次稿で「表現の不自由展」について記す予定だが、トークイベントでのピーター・バラカン氏の発言が、上記の論調とそのまま重なった。私は勇気がないと前置きし、バラカン氏は「シャルリー・エブド紙は風刺画掲載が引き起こす事態を予測できたはず。私が編集部の一員だったら間違いなく掲載に反対した」と語っていた。

 人質事件がどのような結末を迎えるにせよ、<戦争する国>に向かうのか、<戦争しない国>を維持するのか、日本は立脚点を確認する時機を迎えた。俺はもちろん後者を支持する。

 緑の党東京本部の新年会で、三多摩在住のYさんと話す機会があった。痴呆症で窃盗を繰り返す人、アル中で転落した人、出所したばかりで仕事がない人……。落ちこぼれた人たちを簡易宿泊所に定住させる活動に、Yさんは従事している。行政への怒りや正義感だけでなく、Yさんは一人一人に〝愛すべき理由〟を見いだしている。人間賛歌に感動すると同時に、アラカンになって尊敬すべき仲間に出会えたことに喜びを覚えた。

 Yさんの言葉の端々にも窺えたが、格差と貧困こそ日本が抱える最大の問題だ。アメリカ映画に頻繁に描かれているが、<戦争する国>の前提は、兵隊になることが生活安定の選択肢になる社会である。格差と貧困が排他主義を助長し差別意識を育むことは、世界の共通認識といっていい。

 複眼的に格差と貧困を捉えるため、「税金を払わない巨大企業」(富岡幸雄著、文春新書)を読んだ。富岡氏は国税庁職員を経て現在は中大教授だ。通産省研究会座長や政府税制委員を歴任した税のオーソリティーが、日本の税制の矛盾――法人優遇と消費税――を抉っている。

 政治家、メディア、経済評論家によって、誤った刷り込みが意図的になされている。第一に、<日本の法人税は高い>……。本書はタイトル通り、大企業の実効税率がいかに低いかをデータで示している。例えば三井住友フィナンシャルグループの納税額は300万円(利益は1479億8500万円)、ソフトバンクは500万円(同788億8500万円)……。まさに驚愕の数字だ。

 上記2社だけでなく、本書には実効税負担率の低い巨大企業が数多く登場する。安倍首相の「法人税減税は国際的競争力を維持するために必要」は、声高に叫ばれる大嘘なのだ。本書を一読(立ち読みでも)された方は、〝獣の心を持つ錬金術師〟に怒りが込み上げてくるだろう。右派は〝非国民〟呼ばわりが大好きだが、複雑な手法を用いて〝脱税〟し、富を国家に還元しない企業こそ、そのレッテルに相応しい。

 誤った刷り込みの第二は、<日本人は貯金が多い>……。内閣府の最新の調査で、家計貯蓄率が初めてマイナス(1・3%)に転じたことが判明した。所得が減ったため、貯金を取り崩さないと生活が成り立たない状況になっている。庶民にとって強烈なボディーブローになる消費税10%アップは先送りされたが、富岡氏は本書で「消費税は廃止が当然」と強調していた。

 <増税分を年金制度と福祉の充実に充てる>は空手形で、介護報酬引き下げ、配偶者控除廃止など、安倍政権は弱者切り捨てに余念がない。富岡氏はG紙のインタビューで、興味深いデータを提示した。導入(89年)以降、消費税による税収の累計は282兆円で、同期間の法人3税の減収分は255兆円になる。庶民が企業の利益を負担している構図が浮き彫りになった。

 本書によれば、グローバル企業に支配されつつある先進国に、適正な納税を求める動きが広がっている。〝グローバルタックス〟とでも呼ぶべきだが、各国の協調が条件になる。米オバマ大統領が打ち出した富裕層増税も、その一環かもしれない。

 20代の頃から〝気分は反体制〟だったが、それでも社会に根付く倫理、良心、矜持に幻想を抱いていた。俺は甘かったというべきか、今や眼前の敵は罪の意識なく人々の生き血を啜る貪欲な政官財だ。モンスター退治の第一歩が実効ある法人税増税であることを、本書は教えてくれた。
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