酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「薄氷の殺人」~宿命の愛に彩られたサスペンス

2015-01-13 23:27:36 | 映画、ドラマ
 あの喧騒は何だったのか。小泉元首相のバックアップで細川元首相が都知事選立候補を表明したのは、昨年1月14日だった。あれから1年、ご両人はフェードアウトしたが、長く険しい闘いは続いている。

 佐賀県知事選では保守が分裂し、自公が推す候補が敗れた。農協問題とTPPも背景にあったようだが、緑の党は県民参加の県政、地域の自立と循環型経済、脱原発を軸にしたグリーン革命を掲げた島谷候補を応援した。

 3万3000票弱で3位と厳しい結果に終わったが、嘉田前滋賀県知事、三宅洋平氏らが緑の党代表とトークイベントを開き、加藤登紀子、木内みどりら文化人から支持のメッセージも届いた。リベラルや左派は結集しつつある。俺は怠け者の会員だが、統一地方選では貢献したい。

 慰安婦問題で捏造したと攻撃された元朝日記者が、文藝春秋を名誉棄損で告訴した。上記の都知事選に出馬した宇都宮健児氏ら人権派弁護士が大弁護団を結成する。別稿で紹介したが、中村文則が歴史修正に異を唱える短編を発表し、人間国宝の柳家小三治は正面から安倍政権を批判した。紅白でのサザンのパフォーマンス、NHKのネタ介入を明かした爆笑問題など、陰鬱な空気に抵抗する動きが少しずつ広がっている。

 有楽町で先日、「薄氷の殺人」(14年、ディアオ・イーナン監督)を見た。中国・香港合作で、薄幸の女ウーを演じたグイ・ルイメイは台湾を代表する女優と、中国語圏の粋を結集した作品といえる。前稿で紹介した「6才のボクが、大人になるまで。」を抑えてベルリン映画祭金熊賞を獲得したこともウリで、客足は順調だった。公開直後なので、アバウトな感想を以下に記したい。

 監督自身はオーソン・ウェルズに敬意を抱いているのか、「第三の男」(1949年)、「黒い罠」(58年)にインスパイアされたと語っている。ダークな色調はアンリ=ジョルジュ・クルーゾーにも通底しており、1940~50年代の映画に親しんだ方には堪らない作品だと思う。

 さらに「殺人の追憶」、「哀しき獣」といった、業と性に根差した韓国映画からの影響も窺える。独裁、言論弾圧を経た両国(中国は今も?)ゆえか、闇の奥に潜む眼差しが本作にも漲っている。

 1999年夏、華北地方で男のバラバラに切断された遺体のパーツが、十数カ所の石炭工場で発見された。幾つもの都市をまたいでいるため、運搬可能な者が容疑者に浮上する。妻に逃げられたばかりのジャン(リャオ・ファン)も捜査に加わるが、決定的なミスを犯し、事件も迷宮入りする。

 5年後の冬、社会の裂け目から転落したジャンは〝哀しき獣〟になっていた。目だけがギラギラした酔っ払いの保安員で、悪い目ばかりが続けて出る嘲笑の対象だ。スクリーンから凍えるような寒さが、ジャンの心象風景として伝わってくる。

 再会した元同僚から知らされた事件の情報に閃いたジャンは、憑かれたように被害者の妻ウーを追い始め、夜陰に息を潜める漆黒の魂は、次第に手繰り寄せられていく。ジャンの魂の成分は孤独、絶望、そして狂気。ウーの魂は恐怖と贖罪でかたどられている。2人が観覧車に乗るシーンが印象的で、ロマンチックな「白日焔日=昼の花火」の原題にマッチしていた。

 劇場を出た後、吉田拓郎の「舞姫」を口ずさんでいた。歌われる舞姫が、薄幸なウーに重なったからである。本作はフィルムノワールの系譜を引く重厚なサスペンスであり、宿命と情念に彩られたラブスト-リーでもある。二色の糸を織り成したディアオ・イーナンの才能に感嘆するしかない。
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