酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「トラッシュ」~世界の鼓動に震える秀作

2015-01-17 12:10:59 | 映画、ドラマ
 サザンオールスターズが年末ライブでの演出を謝罪した。周到に準備した上での確信犯と思えるだけに、腰砕けは残念でならない。事務所前での右派の抗議活動も理由のひとつだろうが、〝物言えば唇寒し〟の風潮がさらに強まることを危惧している。

 昨年末、帰省中の新幹線でサンドイッチの大部分を床に落とした。横に座っていたのは10歳前後の少年である。俺は「もったいないな」と照れ笑いし、袋に入れてトラッシュボックスに向かった。この話を従兄弟にすると、「あまえはアホか。『もったいないな』言うて食うのが正しい教育や」と叱られた。

 フィリピンの貧困救援に尽力している従兄弟は、衛生信仰に縛られた日本を笑い飛ばしている。以前から交流があったフィリピンでは、2年続きの台風による水害で、どん底状態で暮らす住民が多い。従兄弟は先日、地元の高校生を引率して被災地を訪れた。法事で帰省する来月、世界に触れた少年たちの感想を聞いてみたい。

 新宿シネマカリテで先日、「トラッシュ! この街が輝く日まで」(14年)を見た。スティ-ヴン・ダルトリー監督作品では「ダロウェイ夫人」(ヴァージニア・ウルフ)をモチーフにした「めぐりあう時間たち」が鮮明に記憶に残っている。

 「トラッシュ」は衝撃作「シティ・オブ・ゴッド」と同じくリオデジャネイロのスラムが舞台だ。ブラジルで昨年、「W杯より生活」を掲げたデモが広がった。来年は同市で五輪が開催されるなど経済発展が喧伝されているが、本作はブラジルの貧困と腐敗を鋭く抉っている。

 ラファエルとガルドはともに10代半ばで、ゴミ拾いを生業にしている。上前をはねるのは地元のボスと警察だ。少年たちはある日、悪徳政治家の秘書(ワグネル・モウラ)が身を賭して入手したメモを拾った。2人はストリートチルドレンのラットを仲間に誘い、革命がスタートする。

 キーになる局面で類まれな才能を発揮するトリオをサポートするのは、神父(マーティン・シーン)とオリヴィア(ルーニー・マーラ)だ。マーラは役柄そのままケニアでNPOを立ち上げ、貧困救済に携わっているという。反警察意識が強い地域住民の後押しもあり、少年たちは真相に迫る。聖書を用いた謎解きも見応えがあった。立ちはだかるのは警察で、フェデリコ(セルトン・メロ)は汚職政治家の意のままに動いている。

 信じること、怒り、正義、自己犠牲、連帯、そして革命……。日本で死語になりつつある言葉が、スクリーンで煌めき弾けていた。俺は<日本で無数のタコツボを繁殖させ、結果として統制のツールになっている>とインターネットに懐疑的に記してきたが、本作では自由への起爆剤になっていた。

 <全ての人が街頭に出て抗議すれば、世の中は変わる>というメッセージ、少年たちがゴミ集積場に札束をばらまくラストシーンに心が熱くなる。本作はまさに<世界の鼓動を感じる映画>で、「未来を生きる君たちへ」、「ある愛へと続く旅」に匹敵する作品だ。

 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの「アモーレス・ペロス」にも世界の鼓動を感じたが、同監督の「バードマンあるいは(無知がもたらす奇跡)」がアカデミー作品賞にノミネートされた。4月の公開を楽しみにしている。
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