酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

覚悟を秘めた四筋の光芒~「福島原発事故から1年」集会に参加して

2012-03-14 23:52:36 | 社会、政治
♪誤魔化さないで そんな言葉では 僕は満足出来ないのです てんびんばかりは重たい方に傾くに決まっているじゃないか どちらももう一方より重たいくせに どちらにも傾かないなんておかしいよ(「てんびんばかり」/河島英五作詞)

 この一年、英五のラストの絶叫が脳裏で鳴り響いている。37年前の名曲は、当時の、そして現在の日本人の〝中立病〟を抉っているのだ。原発に置き換えて考えてみよう。

□原発推進派…安全神話は崩壊したが、経済的な面から早急に再稼働を進めるべきと考える。
□脱原発派…放射能から子供たちを守るため、地震大国日本で原発は即刻止めるべきと考える。

 自治体・学界・不透明な外郭団体(天下り先)に流れる原発マネー、事故が起きた際の天文学的な賠償額(海外も含め)を勘案したら、原発は決して安価ではない。だが、てんびんばかりは、若い世代の内部被曝を犠牲にしても既得権益を守る方向に傾いている。下支えしているのが、有識層の〝中立病〟だ。

 <政官財―メディア―学会―アメリカ>の巨大な連合体と闘っている者がいる。さる11日、<日比谷公園⇒人間の鎖>という選択肢もあったが、DAYSJAPAN主催「福島原発事故から1年」集会(なかのZEROホール)に参加した。パネリストは鈴木薫さん(いわき放射能測定室)、上杉隆(自由報道協会代表)、広瀬隆(ジャーナリスト)、広河隆一(デイズ編集長)の各氏である。覚悟を決めた者たちの光芒に触れた2時間半だった。

 鈴木さんはいわき市で内部被曝を抑えるべく奮闘している。人間への検査、食品の放射能汚染の測定に加え、あらゆる相談を引き受けている。毛が空中を舞うセシウムを吸収しやすいため、犬を飼うのは難しくなっており、洗濯物は外に干せない。とりわけ若い女性の不安は大きく、他の地域から移住してきた人は「逃げたこと」で罪悪感に苛まれている。最前線で心身のケアに取り組む者の貴重なリポートだった。

 上杉氏については繰り返し触れてきたので、欧州委員会とフランス原子力規制局が共催した会議に出席した時の報告に絞りたい。欧州各国の在日大使館が、信頼できると本国に伝えたのが、フリージャーナリストによる情報だった。その連合体である自由報道協会の代表を務める上杉氏が日本から唯一招待されたのは当然といえよう。
 
 チェルノブイリ事故当時、旧ソ連はキエフから小学生を一斉に退避させるなど無策ではなかった。公式の場、あるいはコーヒーブレークで多くの参加者が上杉氏に疑問をぶつける。「民主国家であるはずの日本は、なぜ住民に情報を隠蔽するのか」「メディアはどうして、政府や東電の言動をチェックしないのか」「日本政府はなぜ、子供を逃がさなかったのか」……。原発関連企業幹部も参加した当会議は、推進派が多数を占めた。日本政府の対応に怒りを隠さなかったのは、今後の事業展開を危惧する推進派の方だった。

 上杉氏の後は、自称〝放送禁止物体〟の広瀬氏が登場する。普段通りイラストや図表を提示し、視覚的に講演を進めた。メーンに据えたのは福島原発4号機の状況で、「週刊朝日」掲載のアーニー・ガンダーセン氏(米原子力技術者)との対談に沿っていた。具体的には、ウランを包むジルゴニウム合金が燃焼する危険性である。

 広瀬氏は地震学者と交流が深く、双葉断層での地震発生を指摘する趙大鵬東北大教授の説にも触れていた。「11年3月10日より、今この瞬間の方が地震が起きる可能性は高い」……と広瀬氏の言葉を記していたら、強い揺れを感じ、ドキッとする。上杉氏も指摘していた海への汚染水放流だけでなく、広範囲に及ぶ地下水の汚染についても警鐘を鳴らしていた。次なる地震が原発事故を引き起こしたら、あちこちで「タイタニック」級の混乱が起きる。最優先するのは幼い順から子供、そして女性……。前もって避難のルールを作るべきと説くのは、アジテーターの広瀬氏らしかった。

 広河氏は時間が押していたこともあり、自ら編集した「検証・原発事故報道 運命の1週間 3月11日~17日」(デイズ刊)を中心に進めた。広河氏の発言は、ブログで同署を紹介する際に併せて記すことにする。広河氏が提示した一枚の集合写真に心が痛んだ。ウクライナかベラルーシか、20人ほどの母親が、生まれたばかりの子供を抱いて写っている。左端の赤ちゃんは25年後、全身の腫瘍で苦しんでいるという。

 <この世の中には情に動かされない不思議な人々がいる。それは聖職者だとわたしは思うんだ>(「ウルフ・ホール」から)

 今読んでいる長編小説に、こんな記述があった。この一年、この国に<不思議な人々>が無数に存在することを知る。〝悪魔〟山下俊一氏に従う医師、〝東電の犬〟になった政治家、冷血な官僚、利だけ追う財界人、過ちを認めない研究者……。俺は性善説を信じている。彼らの中から良心に目覚める者が続出する日を待ちたい。
コメント (1)
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