酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「百万遍 青の時代」~眩いほどのピカレスク

2009-11-22 00:16:04 | 読書
 八百長疑惑が欧州サッカー界を震撼させている。既に17人が逮捕され、選手への波及も必至だ。ドイツ代表GKエンケの自殺と関連づけてしまうのは、俺が下卑た野次馬だからだろう。

 展開を早読みして終盤のドラマを見逃すケースが、スポーツでは多々ある。先日のこと、ひいきのコルツがアンチのペイトリオッツに、第4Q早々17点差をつけられた。何せ敵将は〝神様〟ベリチックだ。憤然と録画を消したが、コルツの劇的な大逆転を知り愕然とする。

 花村萬月の自伝的小説、「百万遍 青の時代」(上・下/新潮文庫)を読んだ。作家が主人公に自身を投影するのは当然といえるが、その傾向が一層強くなる自伝的小説を以下の3パターンに分類してみた。

(A)固有名詞を含め忠実に事実をなぞった作品=「玉ねぎの皮をむきながら」(ギュンター・グラス)、「半生の記」(松本清張)など
(B)脚色と粉飾を(A)に加えた作品=「耳の物語Ⅰ・Ⅱ」(開高健)、車谷長吉の作品群など
(C)作者の趣向や感性が色濃く反映した作品=「人間失格」(太宰治)、「仮面の告白」(三島由紀夫)など

 本作は(B)に属する小説だ。主人公の惟朔は15歳で、俺と同世代。三島の割腹自殺、あさま山荘事件、三里塚闘争など耳目を集めた出来事、懐かしい当時の世相や音楽が織り込まれている。惟朔は三島や大江健三郎の初期短編に現れる〝仮想の不良〟ではなく、悪いことはすべて試した作者自身を言語化した〝リアルな不良〟である。

 <世界から自分が切り離されているという感覚>に怯える惟朔は、阻隔感を癒やすため、<命なんて生きることのおまけであるといった意味不明の理屈を弄んで>、シンナーとトルエンをひたすら吸う。お次は覚醒剤で、売人グループの一員として余禄にあずかり、ピンク・フロイドが参加した「箱根アフロディ-テ」(71年8月)ではマリフアナも経験する。

 惟朔が薬物に浸っている時の描写は実に詩的だ。咀嚼され嘔吐された表現は〝和製ブコウスキー〟で、悪魔憑きの領域に達している。だが、読み進めるうち惟朔(=萬月)の別の側面に気付く。怜悧さと罪の意識が浮輪になって溺れることができないのだ。

 惟朔は父に英才教育を施された〝選良のアウトロー〟で、ギターも絵もうまい。天性というべき〝人蕩し〟で、常に年長者に見込まれ、本人が<女の玩具>と意識するほど女性との距離が近い。本作はまさに眩いほどのピカレスクで、「君は完璧だな」と惟朔に声を掛けたくなる。才能にも愛される資質にも欠ける俺は、少し距離を覚えてしまった。

 <善には、悪のもつ悲しみが欠けている。平板で、深みがないから魅力もない。(中略)悪の粗暴さ、無様さ、自堕落には悲哀が充満していて、だから身につまされる>……。

 悪に憧れる惟朔は、中年ヤクザの通称暴力太郎とつるむが、狂気と同義の暴力が噴出する場面を目の当たりにして、心境に変化が生じる。本作は惟朔が京都に向かうところで終わり、「古都恋情」へと続く。

 本作の書き出しは<今日、三島が死んだ>である。次回(25日更新)は命日に当たる三島について記す予定だ。

 一昨日(20日)、「華麗なる英国競馬の世界~三浦皇成イギリス武者修行の旅」(NHKhi)を見た。三浦も惟朔に似て怜悧で、年上の女性(ほしのあき)にもてる少年なのだろう。

 マイルチャンピオンシップは三浦鞍上の⑤スマイルジャック、三浦も訪れた英ニューマーケットで好タイム勝ちした⑮サプレザを軸に、▲④カンパニー、△⑯サンカルロを組み合わせて買うつもりだ。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする