酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「スラムドッグ$ミリオネア」~疾走するラブストーリー

2009-04-26 01:53:58 | 映画、ドラマ
 「始発直前まで踏み切りで寝てた」、「好きだった女性の顔にゲロを吐いた」、「電話ボックスで脱糞した」、「公園の噴水に裸で漬かってた」……。

 草事件をきっかけに、酒に纏わる失敗を楽しげに語る男性が増えている。「ついでに中川も逮捕しろ」(罪状は国辱?)なんて過激な声も……。下戸の凡人は与り知らないが、才能に恵まれた青年が“いい人”を演じ続けるのは大変なんだろう。

 さて、本題。アカデミー主要部門でオスカーを独占した「スラムドッグ$ミリオネア」を見た。ご覧になる方も多いと思うので、ネタバレは最低限にとどめたい。

 「シティ・オブ・ゴッド」が世界を震撼させたのは数年前のこと。舞台をリオデジャネイロからムンバイに置き換えたのが「スラム――」だ。貧困と暴力の背景は共通しているが、ベクトルは逆向きだった。「シティ――」は袋小路の現実を抉ったが、「スラム――」は希望を謳うファンタジーの要素も強い。

 ヒンズー教徒によるイスラム教徒への襲撃で、主人公のジャマールと兄サリーム、そして可憐な少女ラディカは孤児になる。ジャマールたち「三銃士」は孤児を束ねる組織に吸収されるが、ボスの残虐さを目の当たりにして脱走を試みる。ひとりラディカが取り残された。

 ジャマールの生々流転とクイズ問題を重ね、十数年のスパンでカットバックしながらシーンを繋ぐシナリオに感嘆させられた。ジャマールの一途な愛は、薄幸なラディカの諦念と絶望を溶かしていく。ジャマールを演じたデーヴ・パテルの目の演技、ラディカ役のフリーダ・ピントの美しさも見どころのひとつだ。

 生きるために犯す罪、愛を証明するための殺人、悔恨を示すための自己犠牲……。「三銃士」のエピソードの数々は、ヒューマニズムを超越した問いを見る者に発している。斬新でエネルギッシュな映像とラフマーンによる音楽の効果で、ムンバイの雑踏をジャマール目線で駆けているような疾走感に浸ることができた。

 社会派ドラマであり、自然に引き込まれるエンターテインメントでもある。インドの闇から一条の光を放つピュアーなラブストーリーに、心を強く揺さぶられた。俺の中でアカデミー賞は“お行儀良く保守的”というイメージがあったが、「スラム――」はハリウッドの構造を覆した起爆材として、後世語り継がれるかもしれない。

 出世作「トレインスポッティング」(96年)で才気を示したダニー・ボイルは、エンドロールでサービス精神を発揮する。「踊るマハラジャ」を彷彿とさせるダンスシーンで和ませた後、ファイナルアンサーを用意した。明かりがつくまで席を立たないように……。



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