G20開催地ロンドンは、先月末から反グローバリズムを訴えるデモで騒然としている。先進国ではお約束の光景だが、我が日本は絶望的な状況だ。明日を変えるべき若者は牙を完全に抜かれている。
<新左翼>の末流たる俺だが、総選挙では民主党に一票を投じる。政権交代が若者を覆う閉塞感を払拭するきっかけになることに願っているからだ。残念ながら世論は、西松問題で<五十歩百歩>の論理に囚われつつある。腐敗・汚職に関する限り、五十歩(民主党)と百歩(自民党)は大きく違うことを認識すべきだ。
さて、本題。今回は甲斐バンドについて記したい。先日WOWOWで放映された武道館でのライブに、青春の甘酸っぱい記憶が甦った。フロアは中高年層でぎっしり埋まっていたが、甲斐よしひろのしゃがれ声は健在で、身のこなしも思いのほか若々しかった。
70年後半から80年代前半に掛け、パンク~UKニューウェーヴに浸っていたが、「ザ・ベストテン」は欠かさず見ていたし、ニューミュージックにもアンテナを張っていた。次第に洋楽ロックに純化していったが、カラオケの十八番は甲斐バンドである。
甲斐バンドを生んだ“邦楽ロックの聖地”博多には、情念に裏打ちされた<和の風味>とビートに支えられた<洋のテイスト>という2大潮流がある。デビュー時の資質で<和>から<洋>に並べると、甲斐バンド⇒ARB⇒モッズ⇒ルースターズ⇒バッヂといった感じか。ちなみに甲斐はARBから田中一郎を引き抜き、ソロアルバム「翼あるもの」(78年)には森山達也(モッズ)の曲が収録されている。
デビュー曲「バス通り」(74年)には思い出が詰まっている。俺がいつも口ずさんでいることを知った女の子は、顔を合わすたび♪バス通り……の部分だけを悪戯っぽい笑みを浮かべて歌った。俺はドギマギするだけで、歌詞にあるように♪学生だった僕にうまく愛は語れなかった……のだけど。
甲斐バンドを熱心に聴いていたのは、「ヒーロー」(78年)でブレークするまでだ。GSっぽくフォークの薫りがする初期から中期で、WOWOW放映分でいえば、「きんぽうげ」、「裏切りの街角」、「かりそめのスイング」、「氷のくちびる」、「ポップコーンをほおばって」の、色に例えるなら蒼かえんじの名曲群だ。
曲名や歌詞に映画ファンである甲斐の趣味が反映している。甲斐バンドは俺にとって、青春映画3本立ての名画座のイメージだ。ロックバンドらしくなったのは5thアルバム「誘惑」からで、その後はサウンド面で厚みを増すのと反比例するように、秘密めいた匂いや弾ける感じが失われていった。
<ロックであること>、<変化すること>を自らに課したことが甲斐の原動力であり、蹉跌にもなった。甲斐の試みは大規模な屋外ライブの成功で結実したが、変化に必然の模倣が洋楽ファンから批判を浴びた。「魔女の季節」はイーグルス、「東京の冷たい壁にもたれて」はルー・リード、「ヒーロー」はブルース・スプリングスティーン、「アウトロー」はクラッシュの影響が強い。後期にはロキシー・ミュージックの「アヴァロン」に近いアルバムもあった。
試行錯誤を繰り返し、常に別の貌をファンに見せていた甲斐バンドだが、肝というべきは甲斐の言葉だ。日本語をロックに乗せるという難作業に挑み、後世に精華を伝えた。俺にとっての甲斐バンド極私的ベスト5は「かりそめのスイング」、「ダニーボーイに耳をふさいで」、「ポップコーンをほおばって」、「氷のくちびる」、「そばかすの天使」と77年までの曲に集中している。
甲斐バンドと俺の人生は10年前、再び交錯した。勤め人だった俺は女子社員を連れて頻繁にカラオケに興じていたが、ある夜のこと、「100万$ナイト」を歌っている途中、不覚にも涙がこぼれそうになる。歌詞と当時の俺の状況が重なっていたからだ。
WOWOW放映のライブで、甲斐が傑出したソングライターだったことを再認識し、久しぶりに歌いたくなった。が、しかし、今の俺にはカラオケに誘う人がいない。寂しい話だが、孤独もまた楽しである。決して負け惜しみではなく……。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/hiyo_uru.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/face_ang.gif)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/eq_2.gif)
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<新左翼>の末流たる俺だが、総選挙では民主党に一票を投じる。政権交代が若者を覆う閉塞感を払拭するきっかけになることに願っているからだ。残念ながら世論は、西松問題で<五十歩百歩>の論理に囚われつつある。腐敗・汚職に関する限り、五十歩(民主党)と百歩(自民党)は大きく違うことを認識すべきだ。
さて、本題。今回は甲斐バンドについて記したい。先日WOWOWで放映された武道館でのライブに、青春の甘酸っぱい記憶が甦った。フロアは中高年層でぎっしり埋まっていたが、甲斐よしひろのしゃがれ声は健在で、身のこなしも思いのほか若々しかった。
70年後半から80年代前半に掛け、パンク~UKニューウェーヴに浸っていたが、「ザ・ベストテン」は欠かさず見ていたし、ニューミュージックにもアンテナを張っていた。次第に洋楽ロックに純化していったが、カラオケの十八番は甲斐バンドである。
甲斐バンドを生んだ“邦楽ロックの聖地”博多には、情念に裏打ちされた<和の風味>とビートに支えられた<洋のテイスト>という2大潮流がある。デビュー時の資質で<和>から<洋>に並べると、甲斐バンド⇒ARB⇒モッズ⇒ルースターズ⇒バッヂといった感じか。ちなみに甲斐はARBから田中一郎を引き抜き、ソロアルバム「翼あるもの」(78年)には森山達也(モッズ)の曲が収録されている。
デビュー曲「バス通り」(74年)には思い出が詰まっている。俺がいつも口ずさんでいることを知った女の子は、顔を合わすたび♪バス通り……の部分だけを悪戯っぽい笑みを浮かべて歌った。俺はドギマギするだけで、歌詞にあるように♪学生だった僕にうまく愛は語れなかった……のだけど。
甲斐バンドを熱心に聴いていたのは、「ヒーロー」(78年)でブレークするまでだ。GSっぽくフォークの薫りがする初期から中期で、WOWOW放映分でいえば、「きんぽうげ」、「裏切りの街角」、「かりそめのスイング」、「氷のくちびる」、「ポップコーンをほおばって」の、色に例えるなら蒼かえんじの名曲群だ。
曲名や歌詞に映画ファンである甲斐の趣味が反映している。甲斐バンドは俺にとって、青春映画3本立ての名画座のイメージだ。ロックバンドらしくなったのは5thアルバム「誘惑」からで、その後はサウンド面で厚みを増すのと反比例するように、秘密めいた匂いや弾ける感じが失われていった。
<ロックであること>、<変化すること>を自らに課したことが甲斐の原動力であり、蹉跌にもなった。甲斐の試みは大規模な屋外ライブの成功で結実したが、変化に必然の模倣が洋楽ファンから批判を浴びた。「魔女の季節」はイーグルス、「東京の冷たい壁にもたれて」はルー・リード、「ヒーロー」はブルース・スプリングスティーン、「アウトロー」はクラッシュの影響が強い。後期にはロキシー・ミュージックの「アヴァロン」に近いアルバムもあった。
試行錯誤を繰り返し、常に別の貌をファンに見せていた甲斐バンドだが、肝というべきは甲斐の言葉だ。日本語をロックに乗せるという難作業に挑み、後世に精華を伝えた。俺にとっての甲斐バンド極私的ベスト5は「かりそめのスイング」、「ダニーボーイに耳をふさいで」、「ポップコーンをほおばって」、「氷のくちびる」、「そばかすの天使」と77年までの曲に集中している。
甲斐バンドと俺の人生は10年前、再び交錯した。勤め人だった俺は女子社員を連れて頻繁にカラオケに興じていたが、ある夜のこと、「100万$ナイト」を歌っている途中、不覚にも涙がこぼれそうになる。歌詞と当時の俺の状況が重なっていたからだ。
WOWOW放映のライブで、甲斐が傑出したソングライターだったことを再認識し、久しぶりに歌いたくなった。が、しかし、今の俺にはカラオケに誘う人がいない。寂しい話だが、孤独もまた楽しである。決して負け惜しみではなく……。
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