“スポーツの春”到来だ。CL準々決勝第1レグ、一押しのリバプールはチェルシーに1―3と敗れ、崖っ縁でのアウエー戦となる。柔らかく点を取るバルセロナが、現状ではV候補筆頭か。
非体育会“自由人”上原が遅すぎたメジャーデビューを勝利で飾ったが、悲しいニュースもある。アデンハート(エンゼルス)は好投直後に交通事故で、人生のゲームセットを迎えた。芽吹き始めた才能の夭折には心が痛む。
今回は発売されたばかりのザ・フー「アメイジング・ジャーニー」(DVD)について記したい。昨年11月の圧倒的なライブの記憶が甦るドキュメンタリーで、デラックス・エディション(4枚組)にはお宝ライブの映像も収録されている。
今年1月に放映された「みんなロックで大人になった」(NHK衛星1、BBC制作)が提示した、<ビートルズでもストーンズでもなく、モッズの反逆精神とアートを融合させたフーがロックの扉を開けた>という斬新なテーゼの正しさを、本作で再確認できた。
生き残ったピート・タウンゼントとロジャー・ダルトリーが、4人の出会い、デビューまでの“勝ち抜き戦”、成功後の軋轢とプレッシャー、キース・ムーンとジョン・エントウィッスルの死について語る。関係者だけでなく、スティング、エッジ(U2)、エディ・ヴェダー(パール・ジャム)、ノエル・ギャラガー(オアシス)の熱いコメントも織り込まれていた。
ディトワーズ(フーの前身)は50年代から60年代にかけ、ジャズ、スキッフル、R&Bから養分を吸収する。とりわけ影響が大きかったのがR&Bだった。英労働者階級の若者は自らの閉塞感を差別に苦しむアメリカの黒人に重ね、紐帯としてR&Bに魅かれていたことを本作で知る。
ディトワーズ時代からデビューに至るまで、ロジャーがバンドの鋳型を作り上げた。ジョンをスカウトとした時、その友人として加入したのがピートだった。キースが名乗りを上げ、バンドに欠けていたピース(ドラマー)が埋まり、爆発するパズルが完成した。
ピートはフィードバックの創始者で、エリオットの影響を受けた詩、前衛芸術家ネツガーにヒントを得たギター破壊で注目を浴びる。「常識を覆した」とスティングが敬意を語るジョンのリードベ-スを、ピートは「バッハのオルガンのよう」と表現していた。心の叫びを四肢で吐き出すキースのドラミングは、音楽に関心のない人でさえ一目で理解できる“革命”だった。
リーダー格だったロジャーは、日本でいえばジュリー(沢田研二)のようなルックスで少女の嬌声を浴びていたが、やがて受け入れ難い現実に直面する。ピートいわく「フーとは3人の天才と1人のシンガーの組み合わせ」……。薬物に逃避して追放されたロジャーは復帰後、<フーの声>になるため全身全霊を傾け、努力で天才たちと伍していく。
フーはモンタレー・ポップ、ウッドストック、ワイト島でのパフォーマンスで度肝を抜く。バンド史に残るモンタレーでの「マイ・ジェネレーション」を、エディ・ヴェターは「絶対的な放棄」、エッジは「悪魔払いの儀式」とそれぞれの言葉で衝撃を表現していた。
比類なき知性を誇るバンドであることを証明した預言的作品「トミー」は、「ゲルニカ」らと並ぶ20世紀の文化遺産の一つだ。疎外からの解放、トラウマ、DV、自閉症、バーチャルリアリティーへの逃避、薬物依存、暴力への志向、マインドコントロール……。40年前に提示された内容はまさに21世紀の課題であり、バンドの先見性には驚くしかない。
「フーズ・ネクスト」、「四重人格」と質の高いアルバムを発表したフーだが70年代後半、死に彩られたバンドになる。心に闇を抱えたキースは演奏中に昏倒するなど、アルコールと薬物に蝕まれていた。精彩を欠いたことで「捨てられる」との不安もあったのか、薬物依存を強めたキースは78年、この世から去った。キースを救えなかった悔恨を、ロジャーは沈痛な表情で語っていた。
更なる死がフーを襲う。79年のシンシナティ公演で2階席から1階席に殺到した若者が将棋倒しになり、11人が犠牲になった。ロック史上、最悪の悲劇で、トロント公演(DVDあり)を最後に83年、バンドも棺に納まったはずだった……。
活動再開の理由は、ジョンの経済問題という。フーのステージは3人の暴れ者と1人の“クワイエットマン”で構成されていたが、地味に見えるジョンは買い物中毒で、散財を重ね破産状態に陥った。ジョンは01年、ツアーの最中にホテルの一室で召された。ヘロイン過剰摂取で、ベッドに女性……。ノエル・ギャラガーはユーモアを交え、ジョンの見事な死に様を称えていた。
ロックファンはジョンの浪費癖に感謝しなければならない。ザック・スターキー(リンゴ・スターの息子)を加えたフーを、世紀を超えて堪能できるからだ。本作で最大の驚きは、フーのベストライブについてだ。マネジャーだけでなくエッジやエディ・ヴェダーが、「コンサート・フォー・ニューヨーク」(01年10月、ジョンのラストステージ)でのパフォーマンスをバンド史上最高と絶賛していた。
「40年を経ても色褪せないマジック」(ノエル・ギャラガー)、「最後まで続けること」(スティング)……。草創期からロックに接してきた俺は、実働7年ほどで解散したビートルズの潔さに美学を感じていたが、五十路を超えてようやく、老いてもロックと対峙する意味がわかるようになってきた。
フーの険悪な人間関係に目を付けたジミー・ペイジがジョン、キースとセッションを重ねてバンド結成を準備したのは有名な話だ。「レッド・ツェッペリン」の命名者だったジョンは、引き抜き工作に気付いてキースとともにUターンする。フーが不和だった最大の原因は、克服不能に思えたピートとロジャーの葛藤だった。
人間は齢を重ねるごとに孤独になる。かつての仲間や友人とも自然に遠ざかるが、ピートとロジャーは逆コースを辿る。両者はキースとジョンの死を経て、恩讐を超えた友情で結ばれるようになる。俺は素直に、“男たちの絆”に感動した。本作のタイトル通り、2人は死ぬまで“驚くべき旅”を続けていくだろう。
非体育会“自由人”上原が遅すぎたメジャーデビューを勝利で飾ったが、悲しいニュースもある。アデンハート(エンゼルス)は好投直後に交通事故で、人生のゲームセットを迎えた。芽吹き始めた才能の夭折には心が痛む。
今回は発売されたばかりのザ・フー「アメイジング・ジャーニー」(DVD)について記したい。昨年11月の圧倒的なライブの記憶が甦るドキュメンタリーで、デラックス・エディション(4枚組)にはお宝ライブの映像も収録されている。
今年1月に放映された「みんなロックで大人になった」(NHK衛星1、BBC制作)が提示した、<ビートルズでもストーンズでもなく、モッズの反逆精神とアートを融合させたフーがロックの扉を開けた>という斬新なテーゼの正しさを、本作で再確認できた。
生き残ったピート・タウンゼントとロジャー・ダルトリーが、4人の出会い、デビューまでの“勝ち抜き戦”、成功後の軋轢とプレッシャー、キース・ムーンとジョン・エントウィッスルの死について語る。関係者だけでなく、スティング、エッジ(U2)、エディ・ヴェダー(パール・ジャム)、ノエル・ギャラガー(オアシス)の熱いコメントも織り込まれていた。
ディトワーズ(フーの前身)は50年代から60年代にかけ、ジャズ、スキッフル、R&Bから養分を吸収する。とりわけ影響が大きかったのがR&Bだった。英労働者階級の若者は自らの閉塞感を差別に苦しむアメリカの黒人に重ね、紐帯としてR&Bに魅かれていたことを本作で知る。
ディトワーズ時代からデビューに至るまで、ロジャーがバンドの鋳型を作り上げた。ジョンをスカウトとした時、その友人として加入したのがピートだった。キースが名乗りを上げ、バンドに欠けていたピース(ドラマー)が埋まり、爆発するパズルが完成した。
ピートはフィードバックの創始者で、エリオットの影響を受けた詩、前衛芸術家ネツガーにヒントを得たギター破壊で注目を浴びる。「常識を覆した」とスティングが敬意を語るジョンのリードベ-スを、ピートは「バッハのオルガンのよう」と表現していた。心の叫びを四肢で吐き出すキースのドラミングは、音楽に関心のない人でさえ一目で理解できる“革命”だった。
リーダー格だったロジャーは、日本でいえばジュリー(沢田研二)のようなルックスで少女の嬌声を浴びていたが、やがて受け入れ難い現実に直面する。ピートいわく「フーとは3人の天才と1人のシンガーの組み合わせ」……。薬物に逃避して追放されたロジャーは復帰後、<フーの声>になるため全身全霊を傾け、努力で天才たちと伍していく。
フーはモンタレー・ポップ、ウッドストック、ワイト島でのパフォーマンスで度肝を抜く。バンド史に残るモンタレーでの「マイ・ジェネレーション」を、エディ・ヴェターは「絶対的な放棄」、エッジは「悪魔払いの儀式」とそれぞれの言葉で衝撃を表現していた。
比類なき知性を誇るバンドであることを証明した預言的作品「トミー」は、「ゲルニカ」らと並ぶ20世紀の文化遺産の一つだ。疎外からの解放、トラウマ、DV、自閉症、バーチャルリアリティーへの逃避、薬物依存、暴力への志向、マインドコントロール……。40年前に提示された内容はまさに21世紀の課題であり、バンドの先見性には驚くしかない。
「フーズ・ネクスト」、「四重人格」と質の高いアルバムを発表したフーだが70年代後半、死に彩られたバンドになる。心に闇を抱えたキースは演奏中に昏倒するなど、アルコールと薬物に蝕まれていた。精彩を欠いたことで「捨てられる」との不安もあったのか、薬物依存を強めたキースは78年、この世から去った。キースを救えなかった悔恨を、ロジャーは沈痛な表情で語っていた。
更なる死がフーを襲う。79年のシンシナティ公演で2階席から1階席に殺到した若者が将棋倒しになり、11人が犠牲になった。ロック史上、最悪の悲劇で、トロント公演(DVDあり)を最後に83年、バンドも棺に納まったはずだった……。
活動再開の理由は、ジョンの経済問題という。フーのステージは3人の暴れ者と1人の“クワイエットマン”で構成されていたが、地味に見えるジョンは買い物中毒で、散財を重ね破産状態に陥った。ジョンは01年、ツアーの最中にホテルの一室で召された。ヘロイン過剰摂取で、ベッドに女性……。ノエル・ギャラガーはユーモアを交え、ジョンの見事な死に様を称えていた。
ロックファンはジョンの浪費癖に感謝しなければならない。ザック・スターキー(リンゴ・スターの息子)を加えたフーを、世紀を超えて堪能できるからだ。本作で最大の驚きは、フーのベストライブについてだ。マネジャーだけでなくエッジやエディ・ヴェダーが、「コンサート・フォー・ニューヨーク」(01年10月、ジョンのラストステージ)でのパフォーマンスをバンド史上最高と絶賛していた。
「40年を経ても色褪せないマジック」(ノエル・ギャラガー)、「最後まで続けること」(スティング)……。草創期からロックに接してきた俺は、実働7年ほどで解散したビートルズの潔さに美学を感じていたが、五十路を超えてようやく、老いてもロックと対峙する意味がわかるようになってきた。
フーの険悪な人間関係に目を付けたジミー・ペイジがジョン、キースとセッションを重ねてバンド結成を準備したのは有名な話だ。「レッド・ツェッペリン」の命名者だったジョンは、引き抜き工作に気付いてキースとともにUターンする。フーが不和だった最大の原因は、克服不能に思えたピートとロジャーの葛藤だった。
人間は齢を重ねるごとに孤独になる。かつての仲間や友人とも自然に遠ざかるが、ピートとロジャーは逆コースを辿る。両者はキースとジョンの死を経て、恩讐を超えた友情で結ばれるようになる。俺は素直に、“男たちの絆”に感動した。本作のタイトル通り、2人は死ぬまで“驚くべき旅”を続けていくだろう。