酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

シアトル~<敗者の美学>を育んだ街

2005-09-04 00:27:06 | 音楽

 WOWOWで「hype!」(96年)を見た。シアトルのグランジシーンを追ったドキュメンタリーである。80年代のシアトルはゴミと異臭の街で、凶悪犯罪が頻発する“no way out”(行き止まり)に、バラエティーに富む1000以上のバンドがひしめいていた。

 本作には幾つものインディーバンドが登場する。「俺はドブさらいの負け犬だ」とアジるクラッカーバッシュはパール・ジャム風、モノメンはガレージロックの典型だ。サム・ヴェルヴェット・サイドウォークやブラッド・サーカスは初期ニルヴァーナを彷彿とさせ、ファストバックスは少年ナイフにそっくりだ。本家はどっちなんて議論は無意味で、互いに刺激し合っているうちに、スタイルが確立されたのだろう。

 グランジの仕掛け人はサブポップ・レーベルだった。タイトルの「hype!」(過剰広告)通り、サブポップはマッドハニーを前面に、英紙「メロディーメーカー」を釣り上げた。60年代のロンドンや70年代のニューヨークより、今のシアトルの方が凄い……。一部のファンが騒ぎ始め、サウンドガーデンやアリス・イン・チェインズがメジャーデビューを果たす。「一丁上がり」の雰囲気が漂った時、ニルヴァーナが現れた。本作には「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」の初演の模様が収められている。

 重く、暗く、醒めて、品がなく、捻れ、反抗的で、ヒリヒリ痛い……。グランジは独特のファッションとともに世界を席巻した。今年一番売れているコールドプレイの3rdにしても、ビルボ-ドでは「▲×2」(200万枚)だが、ニルヴァーナとパール・ジャムの2ndは、それぞれ米国だけで1000万枚を売り上げた。二番煎じ、三番煎じを求めたメジャーレーベルは、シアトル中でバンドを買い漁る。結果は言わずもがなだった。

 シアトルという<番外地>で育まれたのは、世俗的成功への忌避感、<敗者の美学>と呼ぶべきメンタリティーだった。カート・コバーン(ニルヴァーナ)もエディ・ヴェダー(パール・ジャム)も、「成功してごめんなさい」という倒立した罪の意識に苛まれていた。エディは本作で<「hype!」によって得た成功は、真実を壊す。大切な音楽や人生を破壊し、ただの日用品にしてしまった>とコメントしている。カートは空騒ぎに自ら終止符を打ったが、エティはその遺志を継いだ。チケットマスターに異を唱え、ブードレッグを「表」としてリリースするなど、身を削る戦いを続けている。

 グランジ同様、<ダークサイド・オブ・アメリカ>を照射したのがハリケーン「カトリーナ」だ。富める者のみに便宜を図る資本主義独裁国……。ニューオーリンズはそんなアメリカの本質を曝け出している。選挙人に登録していないスラムの黒人など、ブッシュ大統領が気に懸ける存在ではない。他の先進国なら社会民主党や共産党に投票して貧富の差を埋めることも可能だが、アメリカの2大政党制は体のいい暴力装置でしかない。この悲惨な現実こそ、骨太で過激な音楽を生み続ける土壌なのだが……。

 話は変わるが、同じくWOWOWでフジロックのダイジェストを見た。相変わらずニュー・オーダーは下手糞だったが、ラストの「ラヴ・ウィル・ティア・アス・アパート」にジーンときた。イアン・カーティスが自殺して25年。引き裂かれずにバンドを続ける仲間のことを、イアンはあの世から、どんな思いで見守っているのだろう。

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