<1244> 信濃永遠
そこここに思ひ点せし君ゆゑに 花と山との信濃永遠
早春の信濃の朝の大気感 眩しき雪の嶺の連なり
人の手の温もりなども思ひしが信濃の旅の早春の朝
懐かしく思ひ出すなり雪嶺と雪嶺色のやうな昼月
稜線の起伏を辿る眼あり声をともなふやさしかる声
一本の白木の道標 嶺を指し歩きしことも信濃なるかな
花あれば花に歩を止め目に入れて行きし二人の信濃なりけり
スト-ブの赤々と燃えゐたれるに信濃はありき 連嶺のフォト
夏蜜柑置かれし窓辺 思ひ出は信濃の旅の夜汽車のあかり
信濃への旅の夜汽車の薄明かり蜜柑一つを分かちあひたり
青春の一頁なる信濃路は夜汽車「ちくま」のほどよき速さ
樹の高さ梢を渡る風の鳴り信濃の夏の季の輝き
美しき花のあたりに聞きし声 恋しくありし信濃路の旅
辿りゆくその先々の期待感 思へば信濃の駅の名なども
しばたたく眼が遥か辿りしは稜線まさに遥かなるもの
君の背が木々の間を軽やかに行きUFOの形の夏帽
君と我が行き帰りなる夢の中 山独活の花咲きしなりけり
眺望は眩しく君の眼差しも 穂高の嶺の連なるあたり
雲よりも雪渓よりも眩しかる信濃の旅の君が夏帽
信濃には何が似合ふか 問ひしとき 君の夏帽輝きにけり
青春歌ありけるところ 夏帽を点睛として君の信濃路
万緑に輝く羽毛 寸刻を旅す信濃の君が夏帽
信濃路を君に山の名訊きながら歩きたくゐし思ひの一日
夏帽を心に点し訪ひ行かむ 二人のための記念樹の丘
ここに掲げた「信濃永遠」二十四首は、二十歳前後、憧れの信濃に思いを馳せて旅した青春真っただ中の恋歌という設定である。信濃にはそれほど頻繁に訪れているわけではないが、北アルプスをはじめとする連嶺の爽やかな印象が四季を通じて私の心の中に一つの大きな存在的風景としてある。ここに掲げた一連の歌は、この青春の浪漫的風景に触発されて生まれたものと言える。相手は若くして世を去る設定であるが、冒頭に掲げた題詠の「信濃永遠」の歌は忍恋の永遠性を意識に置いて作ったもので、それは生涯のひととなる偲ぶ恋にも繋がる恋の一典型という心持ちによる。 写真は初夏の北アルプス穂高連峰。
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