大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年12月23日 | 植物

<3267> 大和の花 (1145) タチバナ (橘)                                   ミカン科 ミカン属

                                              

 海に近い山地に生える常緑低木乃至小高木で、高さは大きいもので7メートルほどになる。枝は緑色、葉は互生し、長さが3センチから6センチの楕円形で厚く、先がやや尖り、縁に鋸歯はなく、表面に油点が見られる。また、葉腋に長さ1センチ弱の刺を有する。

 花期は5、6月ごろで、枝先に香りのよい白い5弁花をつける。花は直径2センチほどで、ミカンの花に似る。実はウンシュウミカンより小粒で、直径2センチから3センチの扁球形になり、中の袋も少ない。果被は薄く、秋に熟し、黄色になる。実は酸味が強く、食用には向かない。

 タチバナ(橘)の名は『古事記』や『日本書紀』に見える逸話によるという。逸話は、垂仁天皇のとき天皇の命によって多遅麻毛里(田道間守)が非常香菓(非時香菓・ときじくのかぐのこのみ)を求めて常世国に出かけ、年月を経て木の実(タチバナの実)を持ち帰ったが、天皇はすでに崩御し、悲しんだ多遅麻毛里(田道間守)は天皇の陵に向かってこの実を捧げ、慟哭して亡くなったとある。この香菓(かぐのこのみ)を多遅麻毛里(田道間守)の名に因みタチバナと呼ぶようになったという。

 このように、タチバナは柑橘類の中では我が国においてもっとも古くに見える樹木として知られ、『万葉集』には69首に詠まれ、当時から植えられていたことが知られる。『枕草子』は木の花について「四月のつごもり、五月のついたちのころほひ、橘の葉の濃く青きに、花のいと白う咲きたるが、雨うち降りたるつとめてなどは、世になう、こころあるさまに、をかし。花の中より、黄金の玉かと見えて、いみじうあざやかに見えたるなど、朝露にぬれたる朝ぼらけの桜に劣らず。郭公のよすがとさへ思へばにや、なほさらに、いふべうもあらず」と称揚している。

 御所の紫宸殿の前庭に植えられた左近の桜に対し、右近の橘は名高く、『枕草子』が比較にあげた桜はこの右近の桜と思われる。今でも社寺の前庭に植えられている。私の知るところでは興福寺南円堂に見られが、説明札にはヤマトタチバナとある。なお、実と葉を模った橘紋は有名紋の一つで、文化勲章の勲章はタチバナの花が模られたものである。

 このタチバナについて、牧野富太郎は『植物知識』に、今、社寺などに植えられて見えるタチバナは『古事記』等に言われるタチバナではなく、キシュウミカンのようなコミカンであると述べている。コミカンは本州、四国、九州の山地に野生するミカンで、歴史上のタチバナとは異なるもので、それを結びつけているに過ぎないと言っている。『奈良県野生生物目録』(奈良県編)にタチバナの名は見えず、タチバナモドキの名があるのはこの牧野富太郎の見解が反映されているのではないかと思われる。

   草木事典などに別称として見える二ホンタチバナは牧野富太郎が名づけたもので、ヤマトタチバナとあるのも牧野富太郎のこの指摘によって歴史上のタチバナとの異なりにおいてつけられたものであろう。言わば、タチバナは歴史上のタチバナからコミカンに当たるタチバナまでひっくるめて総称とするのがよいように思われる。スミレを固有種名とスミレ属の総称とするのに等しい。 写真はタチバナ(二ホンタチバナ)の花(左)と果期の姿(興福寺南円堂)。       年の瀬や今年はコロナ禍に尽きぬ


大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2020年12月23日 | 植物

<3266> 大和の花 (1144) ウンシュウミカン (温州蜜柑)                          ミカン科 ミカン属

                   

 ミカンは柑橘類に属し、柑橘類の原産地はインド北東部のアッサム地方とされ、日本には中国を経て伝わった言われ、今のダイダイに近いものではないかと考えられている。常緑の小高木または低木で、いろんな品種に及ぶが、今普通にミカンと呼ばれるものは柑橘類を代表する生産量の多いウンシュウミカン(温州蜜柑)を指して言う。

 ウンシュウミカンは約数百年前、鹿児島県で生まれたとされ、ミカンの産地で名高い中国浙江省の温州(うんしゅう)に因んで、この名がつけられたという。花期は5月ごろで、芳香のある白色の5弁花をつける。実は子房の内側の毛が肥大して多汁の袋になった蜜柑状果で、直径5センチから8センチほど。熟すと黄色になり、皮が薄く柔らかいのでむきやすく、果肉も甘いので柑橘類の中でよく食べられている。

 産地は関東地方以西の沿岸地方に集中し、本州の静岡、和歌山、四国の愛媛、九州の熊本、長崎、佐賀といった県が名高い。大和(奈良県)でも桜井市穴師辺りが産地として知られる。なお、アメリカではウンシュウミカンをSatuma(薩摩)、Mikan(蜜柑)と称し、食べやすいことからテレビを観ながら食べるという意により、アメリカやカナダ、オーストラリアなどではテレビオレンジと呼ばれ、親しまれている。

 このように、ウンシュウミカンは生食されることがほとんどであるが、シロップ漬けの缶詰やジュースに加工される。ミカンは重要果樹の一つで、北国のリンゴとともに消費を誇る庶民的な果物として知られる。 街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る(木下利玄)とウンシュウミカンは詠まれてる。 写真は花期の姿(左)、花のアップ(中)、実(右)。 

  箱売りの年越しみかん売場占む