大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2015年08月18日 | 創作

<1347> 自作短歌回顧 (2)

         来し方の道程(みちのり)にして生(あ)れし歌 回顧に或るはチョウトンボの野

                               

                                                                  (写真はチョウトンボ)

             次章への接ぎ穂に恵む夜の雨 雨に緑の増しゆくこころ

       さればこそ悲しきことも嘉すなり 末黒の後の季節の光

       足跡の途絶えし汀きらめけり 夢はあるべし美しくして

       一応の成果を得しといふ評価 一応といふ涙ぐましさ

       不帰の悲へ今朝のピアノは端然と 微かに百合は花粉を零し

       人生を闘争(たたかひ)とする力説の言葉に対し李が一つ

       透明にあらざるものと相向かふ 自負によらずば何によるべき

       問ひ問はれつつあるところ 人間の人間にある人間の闇

       不束に来し身この身のこの齢 真っ赤な真っ赤な夕陽に染まり

           児は母の腕に眠る 青桐の広葉に宿る五月の光

           峠越え連れなふものはこれやこの 月も越ゆるに越えにけるかも

       遠くより炎天野球の声聞こゆ 我が臨終の日もかくあるか

       蟻地獄 地獄はまさにいきいきと営むころか 読経の真昼

           ひらはらりはらひらはらりひらはらりひらはらはらりひとひらの花

       息づかひ激しき犬とすれ違ふ 病院脇の葉桜の下

       端正に葱植ゑられてゐる庭面 端正そこに意識が向かふ

       大地とはやさしき花を咲かせ子を遊ばせ逝きしものを眠らす

       切なさの表裏にありて橋一つ 渡りつつある人一人見ゆ

       陽炎に揺らぐ六月 来し方の思ひ未だし執着未だ

       野仏は誰の思ひの現れか 草の生きれの中に埋もるる

           キリン舎にキリンの子生る 耳よ聞け目は見よ父母の故国は遠し

       一つ一つ針を刺されてゐる蝶の群なして美し 狂気の予兆

       向日葵の茎の父性とその花の母性 陽の中 立ち枯れてゐる

       言葉もて埋めんとするに埋められず 埋められぬままの器が一つ

       陽の光遍く及ぶ地にあれば ここにも一人恩恵の徒

           我に父我に母ある理と一片の雲の存在の意味

       松風の岡に立ちたる青年が斜めに被る麦藁帽子

       入陽なす辺りを我ら浄土といふ 現身の身は染められゐたる

       理解力及ばざるまま来しことを 青葉の光涙ぐましく

       行くものも行かざるものもかくはある 夢の岸辺は心の岸辺

                                             おわり~