未唯への手紙

未唯への手紙

演奏の神秘 創造性をめぐって

2016年09月30日 | 7.生活
『ピアニストは語る』より 演奏の神秘

物事は起こるがままに

 --では、あなたはどのようにして、そうした多様な要素に自然な統一感をもたらすのでしょう?

 V・A 物事はただ起こるものなので、私はそれを起とるがままにします。私はフランス語でいう「音を押しつけない」という言いかたが好きなのですが、私はなにどとも強いたりはしません。もし、うまく行かなければ、それはうまく行かないものなのです。『熱情ソナタ』でも同じことが起とりましたが、私は自分で弾く弾かないの決断をしたくなかったのです。それが起とるかも知れないし、あるいは起こらないかも知れないということがわかっていましたから。多くの物事は起とりますが、『熱情』に関しても私の内面ではなにかが働きかけていたのでしょう。そうしてようやく、先程お話ししたように、ある朝、ピアノで少しばかり弾いてみて、演奏できるだろうとわかったのです。

  作品の演奏準備をするとき、私は期限を設けません。締め切りというものが好きではないのです。ラフマニノフには二度、デッドラインがありましたが、彼には例外的なことでした。しかし、それはうまく行きました。ラフマニノフは予定より早く学位をとるために、仕上げる決心をしたのです。たしか、なにかしら急ぐ理由があって、外発的なことが関わっていたのでしょう。しかし、私はそのような仕事のしかたはまったくしません。私はことが起こるのを待ちます。来年の演奏会のプログラムを早々に出したことは決してありません。ほんとうに自分が演奏できるのかできないのかということを知ることなく、この曲やあの曲を弾くなどとは言えないからです。

  ソヴィエト連邦時代に、私は多くの非凡な人々に出会いました。今日では彼らのような人はいません。ダヴィッド・オイストラフやムスティスラフ・ロストロポーヴィチの演奏会をいくつか聴き逃してしまったことが深く悔やまれます。「いいや、今夜は友だちに会うことにしよう。もしオイストラフが亡くなったって、数年後にまたどこかにオイストラフのような人が出てくるだろう」と、私は思っていたのです。しかし、オイストラフのような人は、そしてカラヤン、ロストロポーヴィチのような人はもはや現れない--トスカニーニ、ラフマニノフ、クレンペラー、ブルーノ・ワルターについては言うまでもありません。しかし、そのように正直に話すと、楽観主義者たちに批判されたり、嘲笑されたりします。そして彼らには、自分たちのバラ色のものの観かた、自分たちの幸福のために、こちらを抹殺する心構えさえあるのです。「私たちは史上最高の時代に生きているのですよ。テクノロジーの進歩、偉大な作家、偉大なアーティストとともに」。私が「違う」と言うと、彼らは眼差しや、ときには言葉をもって、私を葬り去ろうとする、オスカー・ワイルドが提起していたように。「なんにせよ私を殺さないものは、私を強くするのだ」とニーチエは言いました。彼らは私を殺さなかった、そのかわりに私を強くしたのです。口シアだけではありません、全世界が、私たちが生きている世界が、人生を学ぶのによい学校なのです。スキャンダルを教えられるだけでなく、人生のためにもよい学びの場である--これは確かなことです。

ピアノという楽器

 --あなたはピアノとともに生きてきましたが、総じて、どのようなピアノがあなたにとって良いピアノということになるのでしょう?

 V・A 響きのレンジが広いこと。最近の二つの録音では、ベーゼンドルフアーのインペリアルを弾きました。オーケストラのような巨大な響きがしましたよ。概して私は、強く打鍵して、音や響きを押しつけるのが好きではない。鍵盤の上にただ自分の手を置くだけ、それですべてが起とるのです。

 --ご自身の所有される楽器について教えてください。モスクワの高層アパートで弾いた最初のピアノや、引っ越しで替わったピアノについて。

 V・A 始まりは家族が所有していたアップライト・ピアノでした。父がベヒシュタイン、それからまた別のピアノを買ってくれました。私が最後にもっていたベヒシュタインは素晴らしいピアノで、二〇世紀の初頭に製造されたものでした。驚くべき音がしましたよ、大ホール向きではなかったですけれど。いまは二九七四年にハンブルクで購入したスタインウェイを置いています。今日のスタインウェイよりもずっとよい楽器です。

 --演奏しているとき、あなたにとってピアノとはどのような存在ですか?

 V・A 共犯者、友、幸運--あるいは不運--の道づれです。弾くピアノからインスピレーションを受けることは多いですね。リヒテルとは違って、ピアノと距離を置いて、ほとんど抽象的とも言える物質的な概念を抱くことはありません。自分のピアノや他のピアノを運んで演奏旅行に出ることも、私は決してしないでしょう。

 --さまざまに異なる楽器を弾き、多様なレパートリーに臨みながら、あなたはいつもど自身の深い音で演奏されます。ピアノの響きとはどのようなものだと思われていますか?

 V・A 私は人生を通じて音楽的な響きを聴き続けています。これからもそうするでしょう。手はいつも自由で、理想的なポジションを打鍵できるようにしています。もし両手が自由であれば、音は自然で、豊かな音量をもつでしょう。これは音楽院で言われていたことですけれど。

創造性をめぐって

 --創造的な演奏に求められる才能とはどんなものでしょう?

 V・A ある作品を演奏するときは、ある意味、それを創造していることになります。しかし、この種の創造性は作曲や執筆をするときのものとは根本的に異なるものです。作曲家を頼りにすることができますし、コンサートやレコーディングはとくにインスピレーションを必要とはしません。最近のことで言うと、私は二枚のCDを二日と二時間で録音しました。ただピアノを弾いて、録音しただけのことです。ミケランジェリやソフロニツキーがレコーディング・スタジオで問題を抱えていたことは、私には理解できません。べートーヴェンはすぐそこにいるのです。ただ彼に耳を傾け、この指が奏でるだけのことです。盲六の創造性がときには狂気を帯びるのと比べたら、いたってシンプルなものです。疑いを抱き、絶望し、眠れない夜をいくつか過ごすことに比べれば。楽譜にある以外のことは、この世界では書かれ得ないのです。主体も客体もなく、書くべきこともない。ジョゼフ・コンラッドやサミュエル・ベケットのことを考えてもどらんなさい。ピアノを演奏するには、ただ座って、弾くだけでよいのですよ。

 --では、音楽における天才性とはなんでしょう?

 V・A 演奏家を語るのに、天才とか、天才的なピアニストとかいう言葉は当てはまらないと思います。しかし、作家ロベルト・ムージルは天才です。それから、美術家にして演出家、振付家でもあるヤン・ファーブルもそうでしょう。もし芸術にどのような能力がいるかと言うなら、十分な数の遺伝子が必要で、その質も問われます--自我を構成するためにです。そして、自我が十分に巨大で豊かであれば、望むとおりのことができます。ピアノを演奏するよりも、本を書くほうが私にははるかに興味深いことです。

 --この本を通じて、私たちはヴァレリー・アファナシエフという芸術家について語ってきました。さて、彼の近い未来について、あなたはどのような期待を寄せていますか? どのような成熟、変化、さらには冒険が彼の七〇歳代に待ち受けているのでしょう。

 V・A この五年というもの、私は膨大な原稿を書いています。ですから、私はいまとても幸せなのです。商業的には一見、失敗に終わっているとしても。私はいま『羽の終わり』という題の本を書き続けています。世界が終わるまで書いていくつもりです。最後に残るのは一枚の羽なのです、ロバート・ブラウニングの詩にあるように。

 レコーディングも何枚かはしたいですね。ベートーヴェン、そしてハイドンのソナタ、シューマンのCDを一枚、などなど。コンサートはあまりたくさんやりたくはないです、宣伝のためにするのは嫌ですから。コンサート活動はほとんど時間の無駄で、その意味でグールドは正しかったのだと思います。しかも、彼がそう考えたのは、いまよりもピアノがずっと良くて、聴衆がはるかに教養豊かだった時代のことなのです。セルジュ・ゲンズブールは、ソング・ライティングと歌は二流のアートだと考えていました。真の芸術には「イニシエーション(通過儀礼、入門の手ほどき)」が要るのです。今日のパフォーマーはブリトニー・スピアーズみたいなのばかりで、いいですか、ピンク・フロイドのようではないのですよ。聴衆は足や胸、ハンディキャップ、それからたんに「カリスマっぽい」少年少女に夢中なのです。

 私の芸術への貢献はイニシエーション、つまり努力を要するものです。それから、おそらく、眠れない夜もいくつか--。

ギリシャ政府と経世済民

2016年09月30日 | 4.歴史
『あなたの常識を論破する経済学』より 不平等な結果を招いた統一通貨ユーロの誤算

失業とは究極的には「飢え」の問題

 先にも書いたが、政府の目的は「利益を上げること」ではない。経世済民の実現である。経世済民とは「世を経め、民を済う」という意味を持つ。すなわち、国民を豊かにする政策を実施することこそが、政府の目的なのである。

  ・政府の財政を黒字化する(財政健全化)

  ・政府の規制を緩和する

  ・公共投資を削減する

  ・増税する

 などはすべて「手段」であり、目的ではない。経世済民が達成できるのであれば、財政健全化や規制緩和、増税、公共投資削減政策は正しい。経世済民が達成できず、国民が貧しくなってしまうのでは、前記の政策はすべて間違いになる。

 ところが、現在の世界の政治家、官僚の多くは、手段と目的を混同している。経世済民という政府の本来の目的を無視し、

  「財政は黒字でなければならない」

  「効率化のために規制緩和は断行されなければならない」

 などと、手段を目的化した主張を繰り広げ、政策を推進している。結果的に、世界は次第に不安定な方向に向かっている。

 例えば営利目的の「企業」であれば、何しろ目的が「利益を上げること」であるから、「黒字でなければならない」は正しい。また、利益(黒字)を出すには効率化が必須である。時には人員を削減するリストラクチャリングを断行しても、「利益を上げる」という企業の目的に鑑みると、特に間違っているわけではない。とはいえ、政府と企業は違う。政府は利益を目的とした企業ではなく、「経世済民」が目的のNPO(非営利団体)なのだ。それにもかかわらず、政策という手段を目的化し、国民が所得を得るための雇用の場が失われていくことを放置し、経世済民と懸け離れた状況に至った国が少なくない。

 代表が、2008年以降のユーロの問題児、ギリシャである。ギリシャでは、バブル崩壊後に緊縮財政を強行するという愚行を続け、失業率が12年7月に25%を突破してしまった。サマラス政権(当時)はそれでも大々的な雇用対策を打ち出そうとせず、ついには貧困家庭の子どもたちが学校の授業中に「飢え≒が理由で気を失うという、おぞましい事態を招いてしまった。

 1929年10月のNY株式大暴落に端を発した大恐慌期、米国の失業率は24・9%に達した。当時の米国の都市部では、公共施設や電車の中などで、やはり「飢え」から失神する市民が散見された。

 筆者は失業問題について取り上げる際に、

  「失業者は所得を得られない。所得を得られないと、最終的には飢えにつながる」

 と、繰り返し書いているが、現在のギリシャや大恐慌期の米国は、まさに「失業により飢える」状況に至ってしまったのである。最悪期のギリシャの失業率は、27・4%に達し、大恐慌期の米国をも上回ってしまった。

 人間は「モノ(食料)不足」でも飢えるが、失業による所得不足でも飢えるのだ。しかし、日本や米国、そして欧州には「失業」について軽く見る学者、評論家、官僚、政治家が少なくない。失業とは「失業率」「失業者数」といった数字の問題ではなく、究極的には「飢え」の問題なのだ。

過激政党が民衆の支持を伸ばす

 ギリシャは、確かにもともと失業率がそれほど低くない国ではあった。それでも、80年以降で見れば「悪くても10%台」程度だったのだ。2008年以降のギリシャの失業率上昇は、明らかに異常事態である。何しろ、「それまでの最悪値」の3倍近くにまで高騰してしまった。

 ここまで雇用環境が悪化すると、社会全体が不安定な方向に向かわざるを得ない。ギリシャの「失業による飢えの拡大」は、経世済民の達成どころか、社会全体を壊す可能性を秘めている。誰でも飢え死にするのは嫌であるため、最後には暴動や犯罪に手を染めてでも、食料を手に入れようとする。

 具体的に「何%の失業率で社会が壊れるのか?」といったレッドラインは引くのは難しいが、例えばドイツでは32年に失業率が43・3%に達した結果、翌年、ヒトラーを首班としたナチス政権が誕生した。そして、現在、ギリシャで支持を伸ばしている政党が、「黄金の夜明け」である。

 黄金の夜明けは、これは「極右」と表現しても構わないラディカルな政党で、何しろ、「外国人を全員追い出し、国境線に地雷陣を敷け!」

 という公約を掲げ、2015年9月のギリシャ総選挙で7%の得票率で、18議席を獲得した。信じがたい話だが、現在のギリシャ国会において黄金の夜明けは「第三党」なのである。

 2015年は、ご存じの通りシリアーイラク難民を中心に、100万人を超す中東難民、が地中海を渡り、ギリシャ経由で西欧諸国(ドイツ・スウェーデンなど)に雪崩れ込んだ。難民たちはまずはエーゲ海の島々を目指し、ギリシャから北上するルートでドイツやスウェーデン、イギリスを目指した。

 結果的に、ギリシャでは排外主義的な勢力が力を増すのは分かるのだが、それにしても「黄金の夜明け」が第三党というのは、さすがに危険すぎる。現状の高失業率が続き、さらにギリシャの難民・移民問題が解決しない限り、最終的にギリシャの民主主義が壊れてしまう可能性は、決してゼロではないだろう。

ブレグジットが及ぼす影響 ユーロ・グローバリズムの失敗

2016年09月30日 | 3.社会
『あなたの常識を論破する経済学』より 不平等な結果を招いた統一通貨ユーロの誤算

イギリスがEU離脱を選択

 2016年6月23日。イギリスで行われたEUからの離脱の是非を問う国民投票で、離脱派が勝利。UKIP(イギリス独立党)のファラージュ党首は、

 「6月23日をわれわれの独立記念日とし、イギリスの歴史の夜明けにしよう」と、勝利宣言。

 2015年イギリス総選挙の際に、UKIPに票を奪われることを恐れ、「国民投票実施」を公約に掲げ、票をつなぎとめた保守党の戦略が裏目に出た形になった。まさか、国民投票で離脱派が勝つとは思わなかったのだろう。

 離脱派が勝った結果、残留派のキャメロン首相は辞任を表明。

 また、離脱派の勝利を受け、予想通りポンド暴落。金融市場は大混乱に陥った。日本円は例により、「ポンドに対し急騰したドルに対しても犬がる」事態になり、一時は1ドル98・95円、1ユーロ109・58円、1ポンド133・29円まで円高が進んだ。

 円高が進行したことで、5月24日の日経平均は暴落。前日比▲1286円の14952円と、15000円割れで取引を終えた。

 今後のプロセスとしては、イギリスはEUに離脱を通告。既存の貿易協定を改める交渉が行われ、最終的にEU27カ国中の20カ国が賛成した時点で正式離脱となる。

 EUから離脱した時点で、イギリスは例えばEU圏(及びそれ以外の地域)からの外国人流入に際し「ビザ」を導入するなどの規制が可能になる。

 日本のマスコミでは、国民投票が終わった後になって、ようやく「ブレグジット(イギリスのEU離脱問題)」の焦点が「移民問題」であると報じられ始めた。

 離脱派が勝利したことを受け、ドイツのシュタインマイヤー外相は6月25日にベルリンで記者会見。イギリスは速やかにEUからの離脱交渉を始める必要があると訴えた。

 また、ドイツのメルケル首相は、

  「イギリスは今後のEUとの関係をどのように描いているのか示さなければならない」

 と、イギリスに対し早期に「態度」を明らかにするように主張。

 要するに、イギリスはさっさとEUからの脱退を通知し、リスボン条約50条に沿って離脱手続き進めろという話である。リスボン条約50条は、

  「欧州理事会における全加盟国の延長合意がない限り、脱退通知から2年以内にリスボン条約の適用が停止される」

 となっている。というわけで、イギリスは離脱通告から2年以内に各種の協定を再締結しなければならない。

 例えば、イギリスがEUから離脱したとしても、貿易協定(関税等)は「互いに既存のまま」という決着もあり得る。その場合、問題の、

  「労働者は連合内を自由に移動する権利をもつものとする」

 というEUのルールのみを破棄し、他は「そのまま」という形になる。イギリスはユーロに加盟していないため、金融面も現状のままで済む。

 さらに、イギリスはシェングン協定にも加盟していないため、入国の際のパスポートチェックは元々ある。とはいえ、EUに加盟している以上、EU加盟国の労働者の移動を妨げることはできなかった。

「移民問題」で国民が分断された

 2004年以降、東欧諸国がEUに加盟した結果、イギリスに「安い賃金」で働くポーランドやルーマニアなどの労働者が流入していった。その後、リーマンショツクやユーロ≒バブル崩壊(※イギリスはユーロに加盟していないが、やはり不動産バブルだった)により、08年以降にイギリスの実質賃金の長期下落が始まり、EUからの離脱を訴えるUKIPが支持され、今回の事態に至った。

 移民問題が厄介なのは、好景気の時は国民の実質賃金上昇に問題が覆い隠されてしまうという点である。そして、バブル崩壊や緊縮財政で経済がデフレ化、あるいは不況になると、一気に問題が噴出するわけだ。

 改めて考えても、日本で、

  「成長を確保するには、(外国人労働者を受け入れ)労働力を増やしていく以外に方法はない(木村参議院議員)」

 などと語っている政治家たちは、わが国の政を率いる資格がないことが分かる。彼らは何も考えていないか、国民統合を破壊したいかのいずれかだ。

 そもそも経済成長とは、人手不足環境下において「生産性向上」のための投資が拡大することで実現する。

 現在、日本は生産年齢人口比率が低下し、人手不足が進んでいる。これを「外国人労働者で」などとカバーしようとすると、経済成長、が抑制される(生産性向上の必要性がなくなるため)のに加え、将来、AIやドローンが進化し、技術的失業が始まった時点で、現在のイギリスと全く同じ問題が発生することになるだろう

 日本のマスコミや政治家は、イギリスのEU離脱問題について、

  「外国移民やグローバリズムの問題ではない」

 といった情報操作を行いたいのだろうが、今回のブレグジットは、外国移民を受け入れた後に経済がデフレ化し、国民の実質賃金が長期間下がり、貧困化した国民が外国移民を敵視し始め、国民が分断された結果なのだ。

ユーロ・グローバリズムの失敗

 黒字組と赤字組の差が拡大

 EU(欧州連合)やユーロの基盤となっている思想は、もちろん『グローバリズム』だ。グローバリズムの定義は、大ざっぱに書くと以下の3つを「自由化」し、国境を越えた移動の自由を認めることになる。

  ①モノ・サービスの移動

  ②資本の移動(直接投資、証券投資)

  ③労働者の移動

 EU・ユーロは、現時点で前記3つを「ほぼ完ぺき」に満たしている。EU・ユーロ域内のモノの輸出入に対しては、もちろん関税をかけることはできない。さらに、サービスの輸出入を妨げる各国の社会システム(米国の言う「非関税障壁」)についても、相当程度「同一化」が進んでいる。また、当然の話として、EU・ユーロ加盟国間の資本移動は原則自由だ。直接投資だろうが、証券投資だろう、が、EU圏内の企業や家計は、好きなように域内でお金を動かすことができる。ドイツやフランスの銀行は、制限なくギリシャやスペインの国債を購入して構わないわけで、まさにそれこそが08年以降のユーロ危機の深刻化の一因になった。資本移動が自由化され、互いに資本関係が強まっていると、「ある国」の、バブル崩壊や財政危機が他国に伝播してしまうのである。

 1990年以降の日本のバブル崩壊は、悪影響の拡大があくまで日本国内のみにとどまった。それに対し、現在は各国の資本的結び付きが強化されているがゆえに、一国のバブル崩壊が、他国の金融システムに被害を及ぼす事態になってしまうのだ。

 また、EU加盟国はシェングン協定というパスポートのチェックなしで「ヒトの移動の自由化」を認める協定を結んでいる(島国の英国とアイルランドは除く)。シェングン協定加盟国間では、国境を越える際に国境検査がない。パスポートひとつ見せることなく、西は大西洋から東はポーフンド、スロ、バキア、ハンガリーの対ベラルーシ、ウクライナ国境まで、北はバルト3国から南はイタリア、ギリシャまで、自由自在に動きまわること、ができるのである。

 マーストリヒト条約やシェングン協定に代表される各種の国際条約により、上記の①から③のすべてを自由化し、さらに通貨までをも統合した「ユーローグローバリズム」が成立しているのが、共通通貨ユーロなのだ。

 ユーロ圏内はモノ、カネ、ヒトの動きが自由化されている。結果として、一部のユーロ諸国における財政危機の引き金となる経常収支のインバランス(不均衡)が始まった。いわゆる、「ユーロ・インバランス」の拡大だ。

 左図の通り、99年の共通通貨ユーロ開始以降、08年のユーロ・バブル崩壊まで、ユーロ圏では経常収支の黒字組(ドイツ、オランダ)がひたすら黒字幅を拡大し、赤字組(スペイン、ギリシャ、ポルトガル、イタリアなど)が、これまたひたすら赤字幅を広げていくユーロ・インバランスが進行していった。スペインやギリシャなどの経常収支赤字が拡大した主因は、もちろん貿易赤字である。何しろ、ユーロ圏内ではモノやサービスの移動が自由化されている。逆に言えば、スペインやギリシャは、ドイツからどれほど凄まじい輸出攻勢を受けたとしても、関税で自国市場を保護することはできない。

国民を貧しくするグローバリズムとは

 さらに、何しろユーロは「共通通貨」である。ドイツが対スペイン、対ギリシャで莫大な貿易黒字を稼いだとしても、為替レートの変動はない。ユーロ域内の生産性が低い国々は、盾(関税、為替レート)なしで高生産性国(ドイツなど)の輸出攻勢を受け続けなければならないのだ。結果的に、ギリシャやスペインの経常収支赤字は「調整なし」で膨らんでいった。

 統計的に、経常収支の赤字は「対外純債務(純負債)」の増大になる。ユーロとは、生産性の低い国が延々と経常収支の赤字、すなわち対外純債務を拡大していくという、長期的な継続性が全くない構造になっていたのであ

 ユーロ・グローバリズムの失敗は、世界的な「グローバリズム」の行く末についても、幾つかの貴重な示唆を与えてくれる。1つ目は、自由貿易とは聞こえがいいが、関税や「非関税障壁」の撤廃は、域内の国々を「二分化」してしまうという現実である。すなわち、生産性の高い国から低い国へ、モノやサービスがひたすら流れていき、経常収支のインバランスが拡大してしまうのだ。無論、経済学者は「生産性が低い国は、生産性向上の努力をすべきだ」と言うだろう。それはその通りなのだが、現実には低生産性諸国が十分な生産性を獲得する以前に、対外債務のデフォルトに至る可能性が高い。

 また、資本移動の自由化により、各国の資本的な結び付きを強めると、一国の危機が他国へ伝播してしまうという問題もある。実のところ、1929年以降の「世界」大恐慌の主因の1つは、当時の主要国の資本的結び付きが(今よりも)強固だったことなのだ。資本的に結び付いていたからこそ、米国一国の株式バブル崩壊(29年10月)が、世界主要国に伝播していったのである。

 日本国民は今こそ一度立ち止まり、あらためてグローバリズムについて考え直す必要がある。言葉の響きで政策やソリューションを決めてはならない。果たして、グローバリズムが本当に「日本国民の豊かさ」に貢献するのか。国民を貧しくするグローバリズムに、ソリューションとしての価値などないのだ。

豊田市図書館の23冊

2016年09月30日 | 6.本
010.8『情報資源組織演習』図書館情報学 情報メディアへのアクセスの仕組みをつくる

913.6『うつけ世に立つ』岐阜信長譜

686.21『全国鉄道事情大研究 青函篇』

442.3『スーパー望遠鏡「アルマ」が見た宇宙』

295.32『ニューヨーク』

290.93『ペトラ遺跡とヨルダン』地球の歩き方

290.93『ローマ』地球の歩き方

159『やり抜く力』人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

368.6『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』相手を信じこませる最強の心理テクニック

332.1『あなたの常識を論破する経済学』指標が物語るウソと真実

379.7『「捨てる」記憶術』偏差値29でも東大に合格できた!

397.21『[証言録]海軍反省会9』

913.6『お手がみください』

167『図説 イスラーム百科』

310.31『ヤングアダルトの本』

104『いま世界の哲学者が考えていること』

492.98『師長の臨床』省察しつつ実践する看護師は師長をめざす

337.91『慢性デフレ 真因の解明』

723.36『ゴヤ「戦争と平和」』

140『心理学ビジュアル百科』基本から研究の最前線まで

342.1『【図説】 日本の財政』

762.35『ピアニストは語る』

780.69『儲かる五輪』訪れる巨大なビジネスチャンス

未唯宇宙詳細 3.5~3.8

2016年09月30日 | 3.社会
3.5 中間の存在

 コミュニティ

  生活者

   (1)環境社会の単位
   (2)コンパクトライフ
   (3)つくるモノを減らす
   (4)シェアが基本

  集約

   (1)エネルギー
   (2)スマートの振舞い
   (3)ハイブリッド生活
   (4)幸せをシェア

  場

   (1)モノをシェア
   (2)メディア活用
   (3)活動の基本
   (4)システムを進化

  企業との絡み

   (1)本物を提供
   (2)使うことに集中
   (3)皆で作り、皆で使う
   (4)プル型の商品

 知識と意識

  活動

   (1)教育・医療ノウハウ
   (2)ソーシャルメディア
   (3)企業コンテンツ
   (4)情報活用で武装化

  先人の夢

   (1)ジョブスの世界
   (2)グーグルは知の入口
   (3)Facebookは情報共有
   (4)市民革命

  まとめる

   (1)コラボで意思決定
   (2)情報共有で意識向上
   (3)集合知で知識向上
   (4)ライブラリから分化

  関係者

   (1)行政・企業をつなぐ
   (2)地域活性化
   (3)複合体で地域活動
   (4)共存するエリア

 状況把握

  乃木坂

   (1)コミュニティ進化
   (2)使うこと主体
   (3)メンバー状況
   (4)メディア資源活用

  ブログ・モバメ

   (1)多様なつながり
   (2)チームで情報共有
   (3)プッシュが他メディア
   (4)双方向メディア

  ファン

   (1)活力をシェア
   (2)個人的興味を発揮
   (3)運営に意見・提案
   (4)バーチャル世界

  運営

   (1)理念をカタチに
   (2)情報レベルを向上
   (3)コミュニティ連携
   (4)生き生き社会

 共有意識

  チーム

   (1)世界は不安定
   (2)コミュニティの安定
   (3)チームで才能発揮
   (4)好き嫌いの世界

  ライブ

   (1)クライシス発生
   (2)全てを出し切る
   (3)ゆっくりと変質
   (4)新しい世界の創出

  握手会

   (1)価値観のチーム
   (2)個人間のつながり
   (3)リアルな接点
   (4)チームで多層化

  新しいメディア

   (1)共有意識を熟成
   (2)誰もが発信者
   (3)アイデアの拡張
   (4)コンパクトな社会

3.6 地域インフラ

 クライシス

  必ず起こる

   (1)東海大地震
   (2)スーパーインフレ
   (3)憲法改正(悪)
   (4)地球規模の破壊

  まず逃げる

   (1)津波は海から来る
   (2)地域の防衛が優先
   (3)逃げる教育
   (4)防衛という名の破壊

  集中は脆弱

   (1)原子力は制御不能
   (2)集中は権力を生む
   (3)依存は退化を生む
   (4)地域に分散

  分散自律

   (1)ムダな移動
   (2)集中が根源
   (3)ITでつなげる
   (4)分散から統合

 エネルギー

  自主判断

   (1)地域から仕掛け
   (2)市民の意識変革
   (3)EUは価格変動で判断
   (4)生活の知恵を伝播

  地産地消

   (1)産業は全体効率
   (2)地産地消エネルギー
   (3)コンパクトライフ
   (4)地域インフラで接続

  ソフトパス

   (1)地域ネットワーク
   (2)コラボとライブラリ
   (3)行政・企業を循環
   (4)地域インフラを独立

  原発は国が責任

   (1)中間の存在でまとめ
   (2)国家の判断基準
   (3)地域間連携
   (4)国に支援要求

 先行き

  技術依存は負荷

   (1)ハイドロ・プレート
   (2)生態系の危機
   (3)インフラ構築負荷
   (4)ローテクで対応

  掘り起こす

   (1)アナログな解決策
   (2)インフラの絞込み
   (3)快適さを深堀
   (4)新しい快適さ

  道路の活用

   (1)車の社会的費用
   (2)道路は地域のもの
   (3)環境に対する意味
   (4)多様なインフラ

  家庭負担

   (1)屋根に太陽光発電
   (2)家庭負担は不合理
   (3)アイデア止まり
   (4)個人資産を食い潰す

 コンパクト

  生活者スタイル

   (1)目的ある生活
   (2)バーチャル化
   (3)存在の力
   (4)多様な役割分担

  スマートな生活

   (1)多様なデバイス
   (2)ゲームから遷移
   (3)知的な楽しみ
   (4)個人の分化を育成

  女性主体

   (1)非日常が日常化
   (2)女性感覚の生活
   (3)企業へアピール
   (4)女性主体の行政

  オープンな社会

   (1)半自給自足の世界
   (2)的確な見える化
   (3)コンパクトな生活
   (4)コンパクトシティ

3.7 合意形成

 SNS

  意見

   (1)いい町、いい社会
   (2)ネット型構成
   (3)存在の力から意見
   (4)意思をカタチ

  まとめる

   (1)ゲームから進化
   (2)グループ活動
   (3)意見から行動
   (4)思いを伝播

  生涯学習

   (1)共有意識を展開
   (2)YouTubeの活用
   (3)個人のコンテンツ
   (4)e-ラーニング

  新しい雇用

   (1)地域社会が連帯
   (2)グリーン雇用
   (3)社会で循環
   (4)コミュニティ経済

 ポータル

  メッセージ

   (1)個人プロファイル
   (2)プッシュ型通知
   (3)メンバー状況把握
   (4)モバメ

  ライブラリ

   (1)コンテンツを集合知
   (2)環境問題事例
   (3)決定事項の遵守
   (4)活動経過を表現

  コラボ

   (1)公共哲学のコラボ
   (2)皆で考える
   (3)人と環境の適合
   (4)人・中間・組織適合

  情報共有

   (1)遡りと伝達のループ
   (2)要望を伝達
   (3)市民と国の間の階層
   (4)ステップ理論で貫通

 シナリオ

  高度なコラボ

   (1)多数決の論理
   (2)新しい合意形成
   (3)コラボの仮想化
   (4)市民エネルギー

  テーマ設定

   (1)価値観を共有
   (2)ネットで発信
   (3)チーム連携
   (4)海賊党のテーマ

  チーム検討

   (1)危機感から提案
   (2)周辺の現象解析
   (3)目的と役割
   (4)専門家と連携

  サファイア事務局

   (1)投票行動を変革
   (2)テーマ毎の意思
   (3)政党からグループ
   (4)動員の革命

 平等意識

  シェア

   (1)生活者として共有
   (2)マーケティング変革
   (3)メディア変革
   (4)エネルギー活用

  生活者

   (1)シェアで生き抜く
   (2)新しい快適さ
   (3)ローエネルギー
   (4)ライフスタイル変革

  コミュニティ

   (1)考える中間の存在
   (2)多様性で組織に対抗
   (3)配置と循環で行動
   (4)組織を取り込む

  本来の平等

   (1)生活者の循環
   (2)地域に付加価値
   (3)共有で自己組織化
   (4)平等の意識を徹底

3.8 サファイア社会

 分化

  分化の場

   (1)個人分化が全体
   (2)市民欲求拡大
   (3)中間の存在
   (4)全てを知ること

  覚醒

   (1)コミュニティ理念
   (2)メンバーを拡大
   (3)配置で拡大
   (4)地域自律の核

  インフラ再構築

   (1)シェア社会
   (2)自転車のインフラ
   (3)地域の優先順位
   (4)コミュニティが中核

  持続可能性

   (1)地域起点の循環
   (2)国に提案
   (3)企業はエネルギー源
   (4)循環で持続性確保

 まとめる

  図書館先行

   (1)共有意識を実験
   (2)図書館ポータル
   (3)図書館クラウド
   (4)社会ライブラリ

  ヨーロッパの春

   (1)フェイスブック
   (2)アラブの春その後
   (3)トルコの地域主義
   (4)地中海世界

  地域の雇用

   (1)センサーでつながる
   (2)電気自動車の共有化
   (3)中間の存在で雇用
   (4)地域のまとまり

  いい町つくり

   (1)多くの市民が共存
   (2)行政に頼らない
   (3)市民コミュニティ
   (4)活性化プロジェクト

 統合

  高度サービス

   (1)生活者の快適さ
   (2)互助構造
   (3)ギリシャの六次産業
   (4)自由で平等な社会

  教育変革

   (1)公共インフラ
   (2)教育・医療コンテンツ
   (3)ソーシャル主体
   (4)環境社会を意識

  社会体系

   (1)ハイブリッド交通
   (2)地域適合インフラ
   (3)社会保障と消費税
   (4)地域で将来を決定

  生活体系

   (1)近傍系を確立
   (2)風景を人に合わせる
   (3)少子高齢化に対応
   (4)国の仕組みの変革

 自由と平等

  存在の力

   (1)存在の力で配置
   (2)コミュニティで分化
   (3)組織を統合
   (4)社会を位相化

  配置

   (1)地域の成長保証
   (2)国を超えた存在
   (3)高度サービス化
   (4)社会の再設計

  循環

   (1)TL:地域コミュニティ
   (2)AL:活性化支援
   (3)TG:全体の企画
   (4)AG:企業活力を分配

  サファイア社会

   (1)内なる社会の実現
   (2)地域から国家構成
   (3)自由と平等を保障
   (4)情報共有でつなぐ