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ブレグジットが及ぼす影響 ユーロ・グローバリズムの失敗

『あなたの常識を論破する経済学』より 不平等な結果を招いた統一通貨ユーロの誤算

イギリスがEU離脱を選択

 2016年6月23日。イギリスで行われたEUからの離脱の是非を問う国民投票で、離脱派が勝利。UKIP(イギリス独立党)のファラージュ党首は、

 「6月23日をわれわれの独立記念日とし、イギリスの歴史の夜明けにしよう」と、勝利宣言。

 2015年イギリス総選挙の際に、UKIPに票を奪われることを恐れ、「国民投票実施」を公約に掲げ、票をつなぎとめた保守党の戦略が裏目に出た形になった。まさか、国民投票で離脱派が勝つとは思わなかったのだろう。

 離脱派が勝った結果、残留派のキャメロン首相は辞任を表明。

 また、離脱派の勝利を受け、予想通りポンド暴落。金融市場は大混乱に陥った。日本円は例により、「ポンドに対し急騰したドルに対しても犬がる」事態になり、一時は1ドル98・95円、1ユーロ109・58円、1ポンド133・29円まで円高が進んだ。

 円高が進行したことで、5月24日の日経平均は暴落。前日比▲1286円の14952円と、15000円割れで取引を終えた。

 今後のプロセスとしては、イギリスはEUに離脱を通告。既存の貿易協定を改める交渉が行われ、最終的にEU27カ国中の20カ国が賛成した時点で正式離脱となる。

 EUから離脱した時点で、イギリスは例えばEU圏(及びそれ以外の地域)からの外国人流入に際し「ビザ」を導入するなどの規制が可能になる。

 日本のマスコミでは、国民投票が終わった後になって、ようやく「ブレグジット(イギリスのEU離脱問題)」の焦点が「移民問題」であると報じられ始めた。

 離脱派が勝利したことを受け、ドイツのシュタインマイヤー外相は6月25日にベルリンで記者会見。イギリスは速やかにEUからの離脱交渉を始める必要があると訴えた。

 また、ドイツのメルケル首相は、

  「イギリスは今後のEUとの関係をどのように描いているのか示さなければならない」

 と、イギリスに対し早期に「態度」を明らかにするように主張。

 要するに、イギリスはさっさとEUからの脱退を通知し、リスボン条約50条に沿って離脱手続き進めろという話である。リスボン条約50条は、

  「欧州理事会における全加盟国の延長合意がない限り、脱退通知から2年以内にリスボン条約の適用が停止される」

 となっている。というわけで、イギリスは離脱通告から2年以内に各種の協定を再締結しなければならない。

 例えば、イギリスがEUから離脱したとしても、貿易協定(関税等)は「互いに既存のまま」という決着もあり得る。その場合、問題の、

  「労働者は連合内を自由に移動する権利をもつものとする」

 というEUのルールのみを破棄し、他は「そのまま」という形になる。イギリスはユーロに加盟していないため、金融面も現状のままで済む。

 さらに、イギリスはシェングン協定にも加盟していないため、入国の際のパスポートチェックは元々ある。とはいえ、EUに加盟している以上、EU加盟国の労働者の移動を妨げることはできなかった。

「移民問題」で国民が分断された

 2004年以降、東欧諸国がEUに加盟した結果、イギリスに「安い賃金」で働くポーランドやルーマニアなどの労働者が流入していった。その後、リーマンショツクやユーロ≒バブル崩壊(※イギリスはユーロに加盟していないが、やはり不動産バブルだった)により、08年以降にイギリスの実質賃金の長期下落が始まり、EUからの離脱を訴えるUKIPが支持され、今回の事態に至った。

 移民問題が厄介なのは、好景気の時は国民の実質賃金上昇に問題が覆い隠されてしまうという点である。そして、バブル崩壊や緊縮財政で経済がデフレ化、あるいは不況になると、一気に問題が噴出するわけだ。

 改めて考えても、日本で、

  「成長を確保するには、(外国人労働者を受け入れ)労働力を増やしていく以外に方法はない(木村参議院議員)」

 などと語っている政治家たちは、わが国の政を率いる資格がないことが分かる。彼らは何も考えていないか、国民統合を破壊したいかのいずれかだ。

 そもそも経済成長とは、人手不足環境下において「生産性向上」のための投資が拡大することで実現する。

 現在、日本は生産年齢人口比率が低下し、人手不足が進んでいる。これを「外国人労働者で」などとカバーしようとすると、経済成長、が抑制される(生産性向上の必要性がなくなるため)のに加え、将来、AIやドローンが進化し、技術的失業が始まった時点で、現在のイギリスと全く同じ問題が発生することになるだろう

 日本のマスコミや政治家は、イギリスのEU離脱問題について、

  「外国移民やグローバリズムの問題ではない」

 といった情報操作を行いたいのだろうが、今回のブレグジットは、外国移民を受け入れた後に経済がデフレ化し、国民の実質賃金が長期間下がり、貧困化した国民が外国移民を敵視し始め、国民が分断された結果なのだ。

ユーロ・グローバリズムの失敗

 黒字組と赤字組の差が拡大

 EU(欧州連合)やユーロの基盤となっている思想は、もちろん『グローバリズム』だ。グローバリズムの定義は、大ざっぱに書くと以下の3つを「自由化」し、国境を越えた移動の自由を認めることになる。

  ①モノ・サービスの移動

  ②資本の移動(直接投資、証券投資)

  ③労働者の移動

 EU・ユーロは、現時点で前記3つを「ほぼ完ぺき」に満たしている。EU・ユーロ域内のモノの輸出入に対しては、もちろん関税をかけることはできない。さらに、サービスの輸出入を妨げる各国の社会システム(米国の言う「非関税障壁」)についても、相当程度「同一化」が進んでいる。また、当然の話として、EU・ユーロ加盟国間の資本移動は原則自由だ。直接投資だろうが、証券投資だろう、が、EU圏内の企業や家計は、好きなように域内でお金を動かすことができる。ドイツやフランスの銀行は、制限なくギリシャやスペインの国債を購入して構わないわけで、まさにそれこそが08年以降のユーロ危機の深刻化の一因になった。資本移動が自由化され、互いに資本関係が強まっていると、「ある国」の、バブル崩壊や財政危機が他国に伝播してしまうのである。

 1990年以降の日本のバブル崩壊は、悪影響の拡大があくまで日本国内のみにとどまった。それに対し、現在は各国の資本的結び付きが強化されているがゆえに、一国のバブル崩壊が、他国の金融システムに被害を及ぼす事態になってしまうのだ。

 また、EU加盟国はシェングン協定というパスポートのチェックなしで「ヒトの移動の自由化」を認める協定を結んでいる(島国の英国とアイルランドは除く)。シェングン協定加盟国間では、国境を越える際に国境検査がない。パスポートひとつ見せることなく、西は大西洋から東はポーフンド、スロ、バキア、ハンガリーの対ベラルーシ、ウクライナ国境まで、北はバルト3国から南はイタリア、ギリシャまで、自由自在に動きまわること、ができるのである。

 マーストリヒト条約やシェングン協定に代表される各種の国際条約により、上記の①から③のすべてを自由化し、さらに通貨までをも統合した「ユーローグローバリズム」が成立しているのが、共通通貨ユーロなのだ。

 ユーロ圏内はモノ、カネ、ヒトの動きが自由化されている。結果として、一部のユーロ諸国における財政危機の引き金となる経常収支のインバランス(不均衡)が始まった。いわゆる、「ユーロ・インバランス」の拡大だ。

 左図の通り、99年の共通通貨ユーロ開始以降、08年のユーロ・バブル崩壊まで、ユーロ圏では経常収支の黒字組(ドイツ、オランダ)がひたすら黒字幅を拡大し、赤字組(スペイン、ギリシャ、ポルトガル、イタリアなど)が、これまたひたすら赤字幅を広げていくユーロ・インバランスが進行していった。スペインやギリシャなどの経常収支赤字が拡大した主因は、もちろん貿易赤字である。何しろ、ユーロ圏内ではモノやサービスの移動が自由化されている。逆に言えば、スペインやギリシャは、ドイツからどれほど凄まじい輸出攻勢を受けたとしても、関税で自国市場を保護することはできない。

国民を貧しくするグローバリズムとは

 さらに、何しろユーロは「共通通貨」である。ドイツが対スペイン、対ギリシャで莫大な貿易黒字を稼いだとしても、為替レートの変動はない。ユーロ域内の生産性が低い国々は、盾(関税、為替レート)なしで高生産性国(ドイツなど)の輸出攻勢を受け続けなければならないのだ。結果的に、ギリシャやスペインの経常収支赤字は「調整なし」で膨らんでいった。

 統計的に、経常収支の赤字は「対外純債務(純負債)」の増大になる。ユーロとは、生産性の低い国が延々と経常収支の赤字、すなわち対外純債務を拡大していくという、長期的な継続性が全くない構造になっていたのであ

 ユーロ・グローバリズムの失敗は、世界的な「グローバリズム」の行く末についても、幾つかの貴重な示唆を与えてくれる。1つ目は、自由貿易とは聞こえがいいが、関税や「非関税障壁」の撤廃は、域内の国々を「二分化」してしまうという現実である。すなわち、生産性の高い国から低い国へ、モノやサービスがひたすら流れていき、経常収支のインバランスが拡大してしまうのだ。無論、経済学者は「生産性が低い国は、生産性向上の努力をすべきだ」と言うだろう。それはその通りなのだが、現実には低生産性諸国が十分な生産性を獲得する以前に、対外債務のデフォルトに至る可能性が高い。

 また、資本移動の自由化により、各国の資本的な結び付きを強めると、一国の危機が他国へ伝播してしまうという問題もある。実のところ、1929年以降の「世界」大恐慌の主因の1つは、当時の主要国の資本的結び付きが(今よりも)強固だったことなのだ。資本的に結び付いていたからこそ、米国一国の株式バブル崩壊(29年10月)が、世界主要国に伝播していったのである。

 日本国民は今こそ一度立ち止まり、あらためてグローバリズムについて考え直す必要がある。言葉の響きで政策やソリューションを決めてはならない。果たして、グローバリズムが本当に「日本国民の豊かさ」に貢献するのか。国民を貧しくするグローバリズムに、ソリューションとしての価値などないのだ。
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