国道そばから切り立った崖の上の団地、下からは顔を上に向け見上げないと団地の存在に気づかない人もある。話では、その崖団地の奥には百戸近くの住宅が街並みを作っている、と聞いていた。先日、所用でその団地を初めて訪ねた。というより、上ったという言い方が当てはまる。ここまで宅地としてよく開いたものだ、建てるときの資材の運搬は大変だっただろうなど、いろいろなことを思いながら歩いた。
国道から続く急な坂道を上る。しばらくすると道路から玄関まで傾斜が30度もあろうかという坂を10から15メートルくらい上る。その隣へ行くのに上った坂を下って隣の同じような坂道をまた上って下る、そんな繰り返しが続く。離れた所では10から20段の石段を上る。その隣家には石段を下りてまた石段を上って下る。そんな高い法面には広い床下車庫が設けられている。造作費用も相当だろうなどと眺める。
そんな坂道で買い物帰りの年配の主婦のかたに何人か出合った。体を前かがみにしてゆっくりと上る姿勢に長年の会得された歩き方を感じる。記憶違いでなければ団地になり始めて数十年くらい過ぎていると思う。そんな団地を上りきると平らな場所、ほっとして進むとすぐにカーブの多い下り坂になる。聞いていた通りひと山全部が団地になっている。
そんな急峻な斜面にある団地、振りかえるとその眺めは路面から見慣れた景色と異なる。ふと「高き屋に のぼりて見れば 煙(けぶり)立つ 民のかまどは にぎはひにけり」という仁徳天皇の和歌を思い出す。この和歌は、煙立たずを見て3年間、税を免除し自らは節約した後に作られた歌という。ガスに電気の現代、民の暮らしとその心を知る方法は何だろうう、額の汗を拭いながら一休みする。
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