「よければ貰うてください」と突然声をかけられた。驚いて振り返ると、この畑の持ち主だろう年配の男性が鎌をもって立っている。突然で戸惑ったが「有難いですが、買ったばかりで」と答えにならないような返答をした。持たれている鎌は、もし所望すれば切り取る準備だったと思う。
散歩沿いの畑に見事に育ったキャベツが並んでいる。それだけなら通り過ぎるのだが、見事さがもうひとつ目に付いた。それは虫食いの葉、つい面白く思えたので、いつも持ち歩く小さなデジカメで撮ろうとするときに声を掛けられた。「よう出来とるのに虫食いになっておしいですのう」と挨拶をした。
「見てつかあさい」と指差される畑には20個くらいのキャベツができている。が、そのすべてが人様より先に虫が少々ではなく頂いていることが分かる。虫食い芸術もこれほどになればひとつのアート畑、腹も立つまいと思っていると、笑いながら「持ち帰っても家内は気味悪がってさわりもしません」と、方言なまりで言われる。
虫の付く前に何とかならないものかと思っていると「娘婿が転勤になって持っていくとこがなくなりました」とちょっと寂びそうに言われる。私が貰えば喜ばれるだろうと思ったが、これほどのものを持って散歩は続けられない。「要ればいつでも取ってつかあさい」そういながらジャガイモ畑のほうへ向かわれた。
話しぶりから、作ることが楽しいのだろうが、喜んで貰ってくれる娘のいなくなった寂しさが虫食いとなって現れたのだろうか。ジャガイモは送ってあげてください、そう思いながら畑を後にした。
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