宝塚大劇場雪組公演『ロミオとジュリエット』本日11時公演を観てきた。
いきなりで恐縮だが、私は昔から『ロミオとジュリエット』が喜劇のように思える。
だいたい、16歳の娘が、夕べ初めて会ったどっかの男と数時間で結婚を決意し、
翌日教会に行って勝手に式を挙げて来たら、そりゃどこの親でも逆上するだろう(笑)。
壮大な恋愛のように描かれているが、あの、結婚するの死ぬの生きるのという騒動は、
全部でわずか二日半くらいの出来事だ。
死ぬところまで入れても五日間?
そして、その若い二人の命がけの恋に打たれたからとはいえ、
仮死状態になる毒薬をジュリエットに与えておいて、見守ることさえ怠った神父は、
どう考えても計画力・思考力・判断力すべてが欠如している(爆)。
うろうろせんと、ちゃんと最初から霊廟に貼り付いて見張っとらんかオノレは!!
事件発覚時、家族は細かい事情を知らないから、怒るどころか改心などしていたが、
本当は、ふたりが死んだのは、神の怒りに触れたとかなんとかではなくて、
単に、神父の間抜けな計画のせいだったのではないだろうか。
……いや、そんな興ざめなことを言っては、いけないのだ。
この物語のすべては、ファンタジーだ。大事なのはリアリティではない。
一瞬で何もかも燃やし尽くすほどの、激しい一途な恋、
そこにある若い二人の純粋さのみを、真実だと考えれば良いのだ。
恋の美しさが弛緩せず力を発揮し続けるためには、結末は悲劇しかないのだ。
理屈を言いツッコミを入れて悦に入っているほうが、よほど無粋なのだ。
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この雪組公演は新トップのキム(音月桂)の大劇場お披露目という位置づけだが、
雪組では現在、トップ娘役が固定されておらず、
今回の公演期間中もジュリエットは、みみ(舞羽美海)ちゃんと、
研1の夢華あみちゃんのダブルキャストとなっていた。
私の見たきょうの公演は、みみちゃんジュリエットのほうだった。
さすがにイケコ(小池修一郎)先生の演出なので、舞台は見応えがあった。
題材も設定も古典的でありながら、現代風の芝居運びと音楽とで、
観客を最後まで引きつける内容だったと思う。
ただ、残念なのは、台詞のある役が大変限られたものだったということで、
大劇場で、この人数で、上演する必要のあるお芝居なのか?
という疑問を、ついつい感じてしまった。
この内容なら、まあバウホールではさすがに小さいだろうとは思うが、
大劇場の半分くらいの大きさの場所でやってちょうどではないだろうか。
キムは綺麗で洗練されていて、歌も巧いしお芝居も自由自在だし、
見る前から「きっと見事にできるのだろう」と思っていた通りの舞台姿だった。
歌もあれだけ歌えれば文句はないし、宝塚が初めての団体客に見て貰うにも、
キム主演なら全くなんの心配もないと感じた。
しかし、欲を言えば、そのあまりに見事にまとまっているところが、
かえってキムの弱点でもあるかな、という気もした。
「変なところ」が全然ないというのは、つまらなさとも紙一重で、
宝塚という「かなり変」なジャンルで真ん中に立っている人として、
キムの上手さ、綺麗さ、は果たしてあれで良いのだろうか、
と、どこかで物足りなく思ったのも本当だ。
みみちゃんもジュリエットに関する限りは良かったと思う。
声も綺麗だったし、16歳というジュリエットの若さも無理なく出ていた。
キムが際だって生々しさのない男役なので、ジュリエットとして添うのは
なかなか難しいことだったのではないかと想像するのだが、
みみちゃんは可憐で、ファンタジーとしての娘役をうまく演じていたと思った。
今回、ロミオとジュリエットのデュエットダンスが、
お芝居のラストのほうにしかなく、ショーで見られなかったのが、
もし役替わりという制約のためだとしたら、残念なことだと思った。
やはり宝塚を観る者として私は、ショーのクライマックスで
トップコンビのデュエットダンスが観たいし、
ふたり揃って銀橋で拍手を受ける演出のほうが、納得感があったと思う。
今回は特に、ロミオとジュリエットの魂が、ひたむきにお互いを見つめ合う、
というようなお芝居であるだけに、尚更、主役コンビのデュエットダンスは
いつにもまして、重要な意味合いがあった筈だと思う。
ちぎ(早霧せいな)ちゃんのマーキューシオは、ロミオとの対比が鮮やかで、
キャラが立っていたのは魅力的だった。
しかし御免なさい、私は私なりに原作からのマーキューシオのイメージがあり、
それは今回ちぎちゃんが演じたものとは、かなり違っていたので、
新鮮な驚きもあったし、正直なところ失望もあった。
私が思っているのより、ちぎちゃんのは若くて軽いマーキューシオだったため、
ティボルトの刃に倒れた場面で、ロミオの大事な友人が死んだ、とは感じたが、
物語の支え手である重要な人物がここでひとり失われた、
という手応えまでは、少なくとも私には伝わって来なかった。
ちぎちゃんは最初から、そのようには演じていなかったのかもしれない。
私が勝手に自分の前提で観たのは申し訳なかったと思っている。
まっつ(未涼亜希)のベンヴォーリオには、畏れ入りました。
私はきょうは主役以外誰が何をやるか全く知らずに行ったのだが、
最初の第一声から、まっつには「誰!?」と圧倒された。
二階席から観ていても胸のすくような舞台姿と、冴え渡る口跡が素晴らしかった。
ショーのダンスでも、まっつには宝塚らしい男役の型があり、実に見事だった。
ある意味、今の雪組の布陣は大変面白いことになっていると思った。
優等生的で白い王子様であるキム、明るいやんちゃな持ち味のちぎ、
そして男役度が高く柔軟な力量で彼らを支えるまっつとが、
とても良いトライアングルをつくっていると感じられたからだ。
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フィナーレナンバーの最後のほうで、キムを真ん中にして、
ドレス姿のふたりが絡む場面があって、私は初め漠然と、
そのふたりはダブルキャストのジュリエット二人なのかと思っていたのだが、
あとでプログラムを見たら、沙央くらま×大湖せしる、なんと男役二人だった。
ジュリエットの乳母(沙央)と踊って楽しいか、ロミオ(爆)。
しかし大湖せしるは、さすがに男役なので体つきは大きかったが、
芝居の中で演じていた『愛』を象徴するダンサーの役は素晴らしかった。
もうひとり『死』を踊った彩風咲奈とともに、このダンスの配置は、
宝塚らしいエッセンスを物語全体に加味していたと思うし、
どちらも適役だったと思った。
彩風咲奈は大湖せしるとのバランスのためもあったかもしれないが、
パレードからあと銀橋でも非常に良い立ち位置にいて、
まだ研4くらいだと思うのだが、男役であの若さで、
少しも位負けしていなかったのが立派だった。
トップが交替し、上級生が卒業して行くのは寂しいものがあるが、
こうして急に大きな役に挑戦することになった生徒さんの姿や、
思いがけない若手の活躍を見ることが出来るのは、やはり良いものだな、
ときょうはしみじみ思ったりもした。
雪組は新たに、良い組カラーが出来つつあるのではないか、という気がした。
またこれから別の演目でも観てみたいと思っている。
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