我が家の一人娘は「ひ○み」という。
主人が『エースをねらえ!』にちなみ、
岡選手のように可憐で素直な娘になってほしい、と願ってつけた名前だ。
その娘も今年は小学校4年生にもなり、
ついに自分で、劇画『エースをねらえ!』を全巻読み、
CSでアニメ・シリーズをも見るまでになった。
それで私も、つい懐かしくなり、彼女の読み終わった巻を眺めていたのだが、
改めて、名作とはなんとツッコミどころの多いものだろうか、と実感した。
『巨人の星』の例を待つまでもなく、
この破天荒なパワー無しには、語り継がれる名作など
誕生し得ないものなのかもしれない。
前から思っていたのだが、この作品には、裏テーマがあると思う。
内声を奏でるごとく『エースをねらえ!』に隠されたもうひとつのテーマ、
それは、「人生を変える不気味な発作=脚の痙攣」。
とにかくここの主要登場人物には、呆れるほど痙攣が多い。
そもそもヒロインの岡ひ○みが、初めて選手に抜擢された試合で、
青葉高校と対戦したときの幕切れが「痙攣」だった。
決め球を見事に打ち返したあと、彼女は足の痙攣発作で棄権する。
相手選手は燃えるような目で彼女を睨み付ける。
『西校・岡ひ○み!忘れないわ!』
だがこの選手はこのあと二度と登場しなかったし、
忘れられたのは自分のほうだった。
この件で『痙攣は体力負けだ!』とコーチにドヤされたのに、
岡選手はこのあとも、性懲りもなく痙攣を起こす。
それは全日本の合宿の最中、ランニングの途中のことで、
皆と一緒に走れなくなった岡は、憧れの藤堂先輩に介抱される。
ここでふたりっきりになって、抱き合うところまで進展できたのだから、
痙攣サマサマだろう。
どうでも良い痙攣の例として、オーストラリア遠征のときの尾崎の痙攣、がある。
夜中、尾崎は寝ていていきなり痙攣を起こし、藤堂にマッサージして貰う。
だから何。何も起こらなかった。なんの必然もない痙攣だった。
痙攣するのは日本人だけではない。ガイジンまでする。びっくりだ。
キング夫人の秘蔵っ子マリア・ヤングが、岡との試合中に痙攣を起こし、
これまた棄権する。
負け知らずで来た彼女の挫折感はただごとでなく、
彼女はストーカーと化して、このあと岡選手につきまとう。
彼女もまた、誇り高い人生を痙攣発作によって変えられたのだ。
登場人物の中でも横綱級の存在感があるお蝶夫人に至っては、
痙攣などという陳腐なものでは、足りない。
彼女の場合は「肉離れ」。
それも倒れた途端、
「これでは入院しなければ」
と自分で診断できてしまうほどのものだ。
このために彼女は、岡との最後の直接対決となる試合に、
出られなくなってしまった。
……逃げたな(^_^;。
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さて、宗方コーチと「加賀のお蘭」が異母兄妹であることは有名で、
このふたりは特に痙攣でどうにかなった、という話はないようだが、
やはり非凡な血筋なのか、彼らは揃って、普通の人には到底できない転び方をする。
お蘭は高校在学中の県大会決勝で、お蝶夫人との試合中、
なぜか「ハッ」として前に転び、手を痛めてしまう。
でもって、この人もまたまた、棄権。これだけで全治2ヶ月。
宗方仁はもっと凄い。
彼は大学時代、桂大悟との練習試合で転び(きっかけは貧血の発作らしいが?)、
膝を強打してしまい、
『転び方が悪かった。あの膝ではもう走れない』
という悲劇的な結果になる。
試合相手であり無二の親友であった桂もまた、選手生命を自ら断つ道を選ぶ。
だが、時速何十キロで走っていたか知らないが、
前に転んだくらいでそれは普通、無理ではないだろうか。
プロレスのリングの、コーナーポスト最上段から外に向かってニードロップ、
それも、何かのデスマッチみたいなイベントで、
「場外のマットが全部外してある!コンクリートむき出し!
ああああ!自爆した~!!!」
くらいの設定がないと、一度であれほどひどく膝を壊すというのは難しいと思う。
娘「ねえ。宗方コーチって、病気だったの?」
夫「ああ、そうだよ」
娘「なんの病気?」
夫「わからん」
娘「おとうちゃんでも、わからないことが、あるの?」
夫「だって、書いてないんだもん」
そうなのだ。彼の死因は不明だ。誰も話題にしない。
転んだ日に再起不能になり、しかもそのあと年単位の経過を辿って命を落とす、
というあたり、膝蓋骨原発の骨肉腫のほうが説得力があるのではと思うが、
作者の説明では「悪性の貧血」とのみ。
考えてみると、コーチが何で死んだのか、これは作品中最大の謎ではないだろうか。
多分、白血病のようなものかなとは思うのだが、定かでない。
日記書きながらふっと死んだなんて、直接死因は、心タンポナーデか何かか?
いずれにしても「往生際が良い」とは、まさに彼のことだと思う。
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