転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



赤毛のなっちゅん―宝塚を愛し、舞台に生きた妹・大浦みずきに
を昨日、買った。
なーちゃん(大浦みずき)の実姉、内藤啓子さんの書き下ろしだ。

なーちゃんが亡くなったのが、ほぼ一年前、
2009年11月14日の朝のことだった。
その前年の秋に、胸膜炎の診断で出演予定の舞台を降板し、
数ヶ月後、3月末に肺癌であることをご本人がファンの前で公表、
以来、ときおり更新される、ファンクラブの電話メッセージだけが
私の知ることのできた、当時の、現在進行形のなーちゃんの姿だった。

この本には、姉妹の幼い頃の思い出や、
少女時代のなーちゃんのこと、宝塚在団中の出来事、
退団後の舞台や私生活の様子、などが記録されているのだが、
これまでなら、周囲への差し支えを考慮して、
はっきりと触れられることのなかったであろう逸話も書かれている、
と私には感じられた。
例えば、『蜘蛛女のキス』の主演を熱望していたが叶わなかったことや、
個人事務所ゆえに独り立ちには苦労をしたこと、
女優になってから、ファンクラブの更新時期になるたびにファンが減ったこと、
また決してファンに見せることのなかった、ご両親の介護の問題のことなども、
淡々とだが明瞭に記述されていた。

しかしそうした、決して甘くはなかった現実の中で、
なーちゃんが、そのときに可能な限りの仕事を、
ひとつひとつ、自分にとっての最善のかたちで積み重ねて行ったことや、
かけがえのない出会いに数多く恵まれたこと、
思いがけない高い評価を外部から与えられたこと、
また、なーちゃん自身が努力を重ねたり工夫をしたりして、
家族との温かい時間を作り出していたことなども、ごく率直に書かれていた。

私は普段だと、著名人が亡くなったときに近しい人が手記を発表するのを、
必ずしも、良いことだとは思っていないのだが、
阪田家に限っては、これは本当に必要なことだったのだと感じた。
作家であったお父上の阪田寛夫氏の遺志をつぐという意味でも、
自身も書くことをしばしば仕事の一部にしていたなーちゃんのためにも、
最も身近であったお姉様が、一冊の本をまとめられることは、
どんな追悼にもまして、意義のあることだったのだと思った。

理知的で、かつ秀逸なユーモアを随所に交えた、あたたかな文体で、
お姉様の目を通して描かれたなーちゃんは、
やっぱり、私たちファンの知っていた通りのなーちゃんだった。
最後の闘病の日々の記述は痛々しいが、なーちゃんの言動から、
彼女のしなやかな感性を印象づけられる場面も多々あった。
一周忌を前に、これだけの文章を書かれるためには、
どんなにか、お姉様としておつらいことも多くおありだったと思うが、
ファンとしては、このような記録を世に出して下さって、本当に感謝している。
お姉様の精神力に、心からの敬意を表したいと思う。
ありがとうございました。

そして、表紙の帯にある阿川佐和子さんの言葉の通り、
なーちゃんご本人がこの本を読まなくてどうする!と私も思った。
読んで、「姉ちゃん、かしこい!」と感心し、
そして恥ずかしそうに、「へへへ」と笑ってくれなくては!

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